チャイナリスクの再浮上

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2019年05月27日

  • 児玉 卓

サマリー

米中摩擦再開は、ほぼ一夜にして中国経済底入れ期待を霧散させてしまった。更にそれは、2018年に顕在化した世界経済の成長鈍化が、米FRBの引き締め解除、インフラ投資など中国の景気対策の効果顕在化によって終止符が打たれる、というシナリオの蓋然性を著しく低めることにもなった。世界の工場としての中国の優位性がますます失われる中で、ASEAN諸国などは製造業の生産拠点を中国から受け継ぐチャンスが生まれているとみることもできなくはない。しかし、短期的にはグローバルな景況感の悪化が金融市場をリスク回避的とし、ASEANを含む新興国からの資本流出圧力が高じる可能性がある。むろん、中国が座して再度の景気悪化を許容するとは考えられない。しかし、例えばインフラ投資を一段と加速させれば、かねての同国の弱点である過重債務問題がより深刻化することは避けられない。それは「人民元ショック」再現の可能性を高め、やはり金融市場をよりリスク回避的とすることになろう。投資の中身が製造業等からインフラにシフトすればするほど、「要らぬハコモノ」が増える懸念が増すという問題もある。それは投資のリターンの低下を通じて、債務問題を更に深刻化させてしまう。米中摩擦は米国経済にも負荷をかけるが、その波及効果を考慮したとき、中国経済にいかなるインパクトが及ぶかが最大の懸念材料ということになろう。

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