サマリー
米中摩擦再開は、ほぼ一夜にして中国経済底入れ期待を霧散させてしまった。更にそれは、2018年に顕在化した世界経済の成長鈍化が、米FRBの引き締め解除、インフラ投資など中国の景気対策の効果顕在化によって終止符が打たれる、というシナリオの蓋然性を著しく低めることにもなった。世界の工場としての中国の優位性がますます失われる中で、ASEAN諸国などは製造業の生産拠点を中国から受け継ぐチャンスが生まれているとみることもできなくはない。しかし、短期的にはグローバルな景況感の悪化が金融市場をリスク回避的とし、ASEANを含む新興国からの資本流出圧力が高じる可能性がある。むろん、中国が座して再度の景気悪化を許容するとは考えられない。しかし、例えばインフラ投資を一段と加速させれば、かねての同国の弱点である過重債務問題がより深刻化することは避けられない。それは「人民元ショック」再現の可能性を高め、やはり金融市場をよりリスク回避的とすることになろう。投資の中身が製造業等からインフラにシフトすればするほど、「要らぬハコモノ」が増える懸念が増すという問題もある。それは投資のリターンの低下を通じて、債務問題を更に深刻化させてしまう。米中摩擦は米国経済にも負荷をかけるが、その波及効果を考慮したとき、中国経済にいかなるインパクトが及ぶかが最大の懸念材料ということになろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済見通し:2019年5月<訂正版>
「米中冷戦」再開で日本の輸出は最大約1.3兆円減少
2019年05月24日
-
米国経済見通し 貿易摩擦下での構造変化
追加関税の拡大によってサプライチェーンの再編が加速する可能性
2019年05月24日
-
欧州経済見通し 強まった外需の不透明感
1-3月期の成長率はBrexitをにらんだ在庫積み増しでかさ上げ
2019年05月24日
-
中国経済見通し:米中摩擦激化、景気は減速へ
第一幕は株式・為替市場の動揺、第二幕は景気への悪影響拡大
2019年05月24日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年5月消費統計
実質消費支出は上振れも、総じて見れば前月から概ね横ばい
2025年07月04日
-
消費データブック(2025/7/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年07月02日
-
2025年6月日銀短観
業況判断DI(最近)は底堅いが、先行きへの強い警戒が示された内容
2025年07月01日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日