サマリー
「トルコ危機」は二つの顔を持っている。一つは同国自身が抱える深刻な病巣としての顔である。何より、インフレ率が15%を超える中でエルドアン大統領が利上げを拒否、中央銀行の独立性をあからさまに脅かすなどは、トルコ・リラを売り叩いてくださいと投機家に大集合をかけているに等しい。対米関係の拗れは、エルドアン氏とトランプ氏という似た者同士の罵り合いのように見えるが、両者ともに国民の経済厚生よりも(きわめて個人的な)政治的野心が優先されるという面で、上記と同根の問題といえる。要は、正しい経済政策が採用されない、されそうにないという不安を市場に与えているのだ。もう一つは、「トルコ危機」がいわゆる適温相場の終焉の一断面でもあるということだ。米国の継続的な利上げなどにより、足元が揺らぎつつある新興国通貨はトルコ・リラだけではない。アルゼンチンに加え、インドネシア、フィリピン、インドなど、通貨防衛的な利上げを余儀なくされた国も着実に増えつつある。従って我々は、「トルコ危機」の他の新興国等への伝播を懸念するのではなく、米国が発する新興国への逆風がどの程度の広がりを持って、どの程度新興国全般の成長を圧迫するのかを懸念しなければならない。いうまでもなく両者は同じではない。何故なら、仮に「トルコ危機」が一定の落ち着きを取り戻したところで、それが新興国全般、ないしはグローバル経済の今後の不安材料を除去することにはならないからだ。
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