米国の独り勝ちが生む世界経済の屈折

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2018年07月23日

  • 児玉 卓

サマリー

IMFは7月16日に公表した世界経済見通し改定版において、世界の成長率を2018年、2019年いずれについても3.9%と前回(4月)から据え置いた。2016年(3.2%)を直近の底とし、2017年の3.7%成長を経て、緩やかな加速が続くというシナリオである。一方、本文の中でIMFは、景気拡大はより「まだら模様」となり、下方リスクが増大していると述べている。前段はトータルの成長率が同じでも勝ち負けが明確化しつつあるということだが、これは二つの意味で危険な兆候といえるだろう。勝ち負けの明確化とは、実際のところ米国の独り勝ちに近いのだが、米国の景気の強さは、保護主義の連鎖がもたらす経済的ダメージに対する耐久力を同国が他国以上に有していることを示唆する。米国が早期に保護主義の矛を収める期待は持ちにくくなる。もう一つは、米国経済の相対的な強さが継続的な利上げを正当化することもあり、ドル高トレンドを持続させる可能性が高いことだ。その裏で進行するのが新興国通貨安であり、経常収支赤字国などをはじめとして新興国の利上げモードがより強まることも考えられる。それは景気の勝ち負けを一段と明確にさせながら、トータルの成長率の低下を帰結するだろう。IMFはいつまで、2019年の世界経済の高い成長見通しを維持できるだろうか。

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