サマリー
このところ、債券市場を中心に新興国への資金流入が活発化しているといわれる。実際、新興国国債のリスクプレミアムが縮小する一方で、起債が活発化している。日欧のマイナス金利など、先進諸国・地域における金融緩和が、世界的な利回りの分捕り合戦を引き起こし、それが新興国にまで波及しているということだろう。これには良い面と悪い面がある。例えば中東産油国など、資源依存度の高い国にとって、低金利資金のアベイラビリティが高まることは、傷んだ政府のバランスシートを修復する上で大きな助けになる。アルゼンチンのようなデフォルト経験国にとっても、政権交代を機とした国際金融市場への復帰を図るうえで、現在の環境はうってつけである。資金流入に伴う通貨の増価が、新興国の金融政策の自由度を高めるというメリットもあろう。もっとも2000年代の新興国ブームと異なり、今、新興国に流入しているカネの多くは、先進国から逃げ出した“Push”のカネであり、新興国が惹きつけた“Pull”のカネでは恐らくない。従って、それが成長に結び付く可能性は高くない。成長をもたらさないカネの流入が過度に及べば、新興国域内でバブルが膨張し、反動的、かつ暴力的な資金流出のリスクが高まる。結局、資金流入もほどほどが良いということになるのだが、そうはいかないのが金融市場の常である。新興国を巡るカネの動きには暫く注視が必要になりそうだ。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
中国:景気減速局面の小休止
短期的には明るい材料も持続性に疑問符
2016年09月20日
-
欧州経済見通し 金融政策頼みが続く
英国経済の意外な底堅さとユーロ圏経済の意外ではない脆さ
2016年09月20日
-
米国経済見通し 高まる財政への期待
循環的な景気拡大は続くが、長期停滞への対応が課題に
2016年09月20日
-
日本経済見通し:引き続き海外発の下振れリスクが残存
日本経済は緩やかに回復する見通しだが、海外発の下振れリスクも
2016年09月20日
同じカテゴリの最新レポート
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
2025年12月日銀短観予想
輸出不振や原材料高で製造業の業況判断DI(最近)は悪化を見込む
2025年12月10日
-
2025年7-9月期GDP(2次速報)
設備投資などが減少し、実質GDPは前期比年率▲2.3%に下方修正
2025年12月08日
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

