サマリー
◆2000年頃から実質賃金は下降傾向にある。本稿では、労働需給と雇用形態の変化に焦点をあて、賃金が上昇しない原因を探る。
◆現在、需要不足失業率は0%に近付いており、構造的失業率と完全失業率はほぼ一致している。労働需給がひっ迫しているにもかかわらず、賃金が上昇しない原因の1つとして、実際の構造的失業率はもっと低く、完全雇用には至っていないということが考えられる。しかし、構造的失業者と需要不足失業者を厳密に分類することは難しく、その検証は慎重に行う必要がある。
◆非正規雇用割合は男女ともに増加している。非正規労働者の約3分の2を占める女性はパート・アルバイトで増えている。最近は男性の非正規労働者が増えており、結果、非正規全体に占める女性の割合は低下しつつある。男性の非正規雇用では契約・派遣・嘱託等で増えており、特に退職後に再雇用される高齢者を指す嘱託が多い。
◆正規と非正規の間、そして男女間でも大きな賃金格差がある。非正規でも男性の方が女性より賃金は高いものの、近年増加している男性高齢者の非正規労働の賃金は非正規の他の年齢階級の賃金より大きく落ち込んでおり、男性高齢者の非正規労働が増えても所得を高める要因にはなりにくい。
◆賃金が上昇しない原因の1つには、労働需給のひっ迫が賃金水準の低い非正規で起きていることが考えられる。実際、正規の雇用者数と賃金は増えない一方で、非正規の雇用者数と賃金は増えている。ただし、非正規雇用の賃金水準は低いため、それが賃金全体に与えるインパクトは弱い。
◆自ら非正規雇用を選択している割合の多い女性や高齢者には、主に多様な就業形態を認める雇用制度面を充実させていくことが必要である。一方で、不本意に非正規雇用を選択している割合が多く、また、就業率が低下している25~44歳の男性には、主に職業技能向上への再教育支援が必要である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年9月全国消費者物価
政策要因でコアCPI上昇率拡大も物価の上昇基調には弱さが見られる
2025年10月24日
-
2025年9月貿易統計
トランプ関税の悪影響続くも、円安効果で輸出金額は5カ月ぶり増加
2025年10月22日
-
2025年8月機械受注
非製造業(船電除く)を中心に弱含み、政府は基調判断を下方修正
2025年10月16日
最新のレポート・コラム
-
2025年9月全国消費者物価
政策要因でコアCPI上昇率拡大も物価の上昇基調には弱さが見られる
2025年10月24日
-
中国:新5カ年計画の鍵は強国と自立自強
基本方針は現5カ年計画を踏襲、構造問題の改革意欲は低下?
2025年10月24日
-
公共施設マネジメントと公会計
〜機能する行政評価〜『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
トランプ2.0で加速する人手不足を克服できるか
~投資増による生産性向上への期待と課題~『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
純債務って何?高市総理が目指す財政指標の意味
2025年10月24日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日

