設備投資が伸び悩む原因(2)
高まる研究開発リスクを社会全体で分散する仕組みを
2016年01月27日
サマリー
◆既に技術面でフロンティアにいる日本のような先進国が設備投資を増やすには、収益性の向上と不確実性の抑制が必要となる。
◆収益性の低下を避けるには、規制改革だけでなく、イノベーションを加速させる研究開発投資を増やし、設備投資をより付加価値を高める方向へシフトさせていくことが重要だ。研究開発投資を増やすには、物的な資本以上に人的な資本(人材)の存在が重要になる。優秀かつ多様な人材が集まれば、様々なアイディアを組み合わせられる可能性が高まってイノベーションを起こしやすくなるからである。
◆一方、研究開発投資を増やせばそれに伴い企業の抱えるリスクは増える。研究開発投資はそれが成功するかどうかが分からず、不確実性が非常に高いからだ。研究開発投資は人的資本に大きく依存しているので、リスクは株式市場を通じて分散させるだけでなく、雇用流動化などの雇用制度改革や起業による雇用促進といった仕組みも整えるべきだ。
◆不確実性の抑制については、国内において政策の透明性や安定化を図り、プロビジネス的な規制・制度を整備して、不確実性要因を取り除くことが求められる。
◆世界銀行による日本のビジネス環境ランキングではOECD34か国中24位(2015年)と以前より順位を下げており、特に日本の税および社会保険料の高さや支払い手続きの煩雑さの問題が指摘されている。政府はこのランキングを2020年までにOECD諸国中3位まで引き上げる計画だが、他国も同時並行でビジネス環境を改善させていることや、2017年4月から導入される軽減税率によって企業の租税に関する事務コストが煩雑になることが予想され、これを機に日本のビジネス環境はさらに悪化する可能性が高い。
◆設備投資を促して中長期の成長力を引き上げていくには、法人実効税率のさらなる引き下げだけでなく、経済構造の変化で生じるリスクを企業だけでなく社会全体で分散していく仕組み、つまり企業がイノベーションしやすい経済・社会制度の構築が必要だ。雇用制度や起業の促進以外にも、例えば、人材開発やイノベーションの拠点として大学の存在がますます重要となろう。
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