サマリー
◆足元で経済成長に必要な資本ストックが伸び悩んでいる背景として、新規の資本蓄積を促す、減価償却を除いた部分の設備投資(純設備投資)が趨勢的に低下していることが挙げられる。資金制約はまだ厳しくないものの、今後は超高齢社会の加速等による資金制約で設備投資が伸びない場合もありうる。
◆設備投資を促すには、企業の将来の収益見通しを改善させる環境を創りだすことに加えて、設備投資を行う上で不確実な要因を取り除くことが重要だ。
◆かつては採算の取れない過剰な資本により日本企業の資本収益率は低下してきたが、問題は現在でもそれほど資本収益率が改善していないことだ。日本の資本係数は上昇を続けており、1990年代以降、米国の資本係数を上回っている。資本ストックが収益性に見合う分野へ最適に配分されておらず、収益率の低い分野で資本が過剰に積み上がっている可能性がある。
◆設備投資の最も重要な決定要因として知られるトービンのqを使って分析すると、収益性の面から設備投資が出やすいのは、食料品、その他の製造業(プラスチック製品、ゴム製品等)、化学工業、生産用(建設・産業・加工機械等)・業務用(精密機械等)・輸送用機械器具、ガス・熱供給・水道、建設、不動産等、卸売・小売、サービス等が挙げられる。一方、パルプ・紙・紙加工品をはじめ、繊維、木材・木製品、印刷・同関連、鉄鋼、石油・石炭製品、農林水産業などは設備投資が出づらい状況となっており、これらの業種では今後も資本ストックを除却していく圧力が強いと言える。
◆不確実性の指標として実質売上高(前年比)の過去5年間の標準偏差を見ると、非製造業の不確実性の水準はここ数年低下している一方、製造業の不確実性はリーマンショック以前と比べても相当高いままだ。資金制約がなくて収益が改善していても、足元のような中国経済等への懸念を示す企業が増えている状況では、製造業を中心に設備投資が大きく増えることは難しいものと思われる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済中期予測(2016年2月)
世界の不透明感が増す中、成長と分配の好循環を探る
2016年02月03日
-
設備投資が伸び悩む原因(2)
高まる研究開発リスクを社会全体で分散する仕組みを
2016年01月27日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年4月全国消費者物価
エネルギー高対策の補助縮小や食料価格高騰が物価を押し上げ
2025年05月23日
-
AI時代の日本の人的資本形成(個人編)
AI時代を生き抜くキャリア自律に向けた戦略
2025年05月22日
-
2025年3月機械受注
民需(船電除く)は事前予想に反して2カ月連続で増加
2025年05月22日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日