サマリー
◆2014年6月に成長戦略の改訂版である「『日本再興戦略』改訂2014」(以下、新成長戦略)が閣議決定された。今回の新成長戦略では、昨年6月の成長戦略では踏み込めなかった岩盤規制と呼ばれる農業や医療において比較的思い切った改革メニューが示され、昨年の成長戦略よりも高く評価できる内容だ。一方で、肝心の雇用・労働市場改革はまだ踏み込み不足の感が強い。
◆雇用・労働市場については、当初、規制改革会議等で議論されていた労働時間規制の三位一体改革が後退している。今後は、実効性のある労働時間規制を組み込んだうえでホワイトカラー・エグゼンプションの議論をしなければ、中途半端な雇用・労働市場改革によって、むしろ問題を悪化させるリスクがある。
◆また、不当解雇時の事後的な金銭解決の結論も、今回の新成長戦略では先送りとなっている。新成長戦略では予見可能性の高い紛争解決システムの構築を図るとされているが、規制改革会議が提言しているように、政府は今後1年以内に結論を出し、不当解雇時の金銭解決導入の早期実現を図るべきだ。
◆これまで政府の成長戦略では、製造業の設備投資を促す政策に偏重しがちであったが、より重要なのはイノベーションを促す人材力の強化である。人的資本の重要性が高まっていることを反映して、例えば自己に対する教育・研修への投資額の税額控除を認めたり、海外の高技能労働者の移民を促したりするといった、人的資本を促進する政策が今後は重要である。
◆今後、具体的な法案作成に至る段階で、厚生労働省の諮問機関であり公労使が参加する労働政策審議会にて細部の詰めが行われるが、そこで改革の内容が骨抜きになるリスクもある。ホワイトカラー・エグゼンプションの適用対象者の制限や労働時間の抑制に向けた取り組みがどこまで具体的な形で示されるのか、今後、我々は労働政策審議会での議論を注意深く監視していく必要があると考える。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本の成長力はどうなるか
日本経済中期予測(2014年8月)2章、3章
2014年08月13日
-
日本経済中期予測(2014年8月)
日本の成長力と新たに直面する課題
2014年08月04日
-
希望をつないだ新成長戦略(下)
岩盤規制の改革は大きく進展、あとは実効性の担保
2014年06月27日
-
安倍政権の成長戦略の要点とその評価
~三本目の矢は本当に効くのか?~『大和総研調査季報』 2014年新春号(Vol.13)掲載
2014年03月03日
-
超高齢日本の30年展望
補論
2013年05月14日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
インド2025年度予算案:消費回復が民間投資を促す好循環を生むか
企業投資の誘発効果の大きい耐久財セクターへの波及がポイント
2025年02月06日
-
消費データブック(2025/2/4号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年02月04日
-
「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 会社法の改正に関する報告書
従業員等への株式の無償交付、株式対価M&A、実質株主の把握など
2025年02月04日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言方針改定
2025年以降の株主総会に適用する助言方針改定はほぼ既報の通り
2025年02月04日
-
中小企業の更なるM&A促進には環境整備が急務
2025年02月07日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
-
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
-
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日