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英国の医療制度改革が示唆するもの

国民・患者が選択する医療へ

2014年03月27日

政策調査部 研究員 石橋 未来

サマリー

◆全国民に対してほぼすべての医療サービスを原則無料で提供している英国の医療制度(NHS)に対する国民の満足度は、長期に亘り不満だとする回答が多かった。しかし今世紀に入り、英国民の評価は急速に改善している。本稿ではその理由を探りたい。


◆1979年に誕生した保守党政権下では低迷していた経済・財政難の再建が図られ、医療の分野でも歳出抑制が優先された。NHS内部に市場メカニズムを持ち込み、競争による効率化が試みられたのである。


◆その結果、病院間の競争が激化し、医療の質は向上するどころか悪化した。さらに、注目されていた医療費抑制に対しても効果は限定的だった。そこで、1997年に政権を担った労働党は大規模なNHS改革を断行。主な改革の内容には①NHSの予算増加と医療従事者の増員、②診療ガバナンスの規定、③患者重視、が挙げられる。


◆労働党のブレア政権下では、医療費を増加させる方向に舵を切ることで、取りこぼされてしまっていた医療の質の改善を試みた。同時に、医療サービス提供者側に対してはガイドラインを規定することで公正な成果を求めた。医療の透明性を高め、診療ガバナンスを強化した患者重視のNHS改革は、国民にも好意的に受け止められ、医療満足度は上昇基調に転じた。


◆その後、病院から地域、治療から予防、家庭医(GP)単独診療からGPを中心としたプライマリ・ケアへと、患者の求める医療の在り方も変化していった。それに伴い、地域の健康度に貢献するGPを支援する診療報酬制度を一部導入するなど、政府も支援体制を整えた。


◆わが国でも、医療費の膨張を抑制する策として、費用対効果を基準に医療の効率化に向けた議論が進み始めたが、2000年代以降のNHS改革で重視された患者にとっての価値や成果、といった説明責任の要素については、制度的な難しさもあり曖昧にされている。多くの国民・患者にとって最良の医療や生き方の選択について、国民的議論が開始されてもよい時期かもしれない。

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