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London Economic Eye(Vol.3)

はじめに/ユーロ圏の危機対策の評価/IFRS 第9号導入でギリシャ国債の評価損軽減か?/二極化する欧州の労働市場と財政負担

2011年08月16日

金融調査部 金融調査部長 児玉 卓

金融調査部 主任研究員 鈴木 利光

経済調査部 エコノミスト 増川 智咲

サマリー

London Economic Eye(Vol.3)は、(1)「ユーロ圏の危機対策の評価」(2)「IFRS 第9号導入でギリシャ国債の評価損軽減か?」(3)「二極化する欧州の労働市場と財政負担」の3本のレポートで構成されている。

(1)「ユーロ圏の危機対策の評価」では、7月21日に発表された第二次ギリシャ支援を含むユーロ圏緊急首脳会議の決定事項、8月7日に発表され、翌日以降実施されているECB(欧州中央銀行)によるイタリア、スペイン国債の買い入れを中心に、最近のユーロ圏の危機対策の評価を試みている。

目下の欧州の最大の懸案は、イタリア、スペインの被救済国仲間入りを回避することにある。7月21日発表の対策は、この問題を素通りし、その付けが回った格好でECB の介入が始まった。今のところ、ECB の介入は、両国国債の利回り抑制に奏功しているが、その機能をEFSF(欧州金融安定ファシリティ)に引き継ぐプロセスの不透明感などから、金利再高騰の懸念を拭うことはできずにいる。

またECBの買い入れの問題点のひとつは、対象国債が「自国の国債」ではないことから来ている。そのため、周辺国財政のサステナビリティを回復させる一助としても、ユーロ圏共通債の発行が、有力なオプションになると考えられるが、ここにはお馴染みの社会的・政治的調整の難しさが付きまとう。ユーロ圏の危機対応が意味のある前進を見せるには、もう一段の深刻な危機が必要なのかもしれない。

(2)「IFRS 第9号導入でギリシャ国債の評価損軽減か?」では欧州銀行への多大なインパクトが懸念されるギリシャ国債の評価について、会計基準を現行のIAS第39号からIFRS 第9号に早期移行することによって損失が軽減される可能性があるとしたIASB 新議長の発言、その趣旨を紹介するとともに、その実現性を検討している。最終的な減損損失に大きな差は生じないにせよ、IFRS第9号を採用することにより、各銀行は減損トリガーなしに予想損失を計上することで「断崖効果」を緩和できる可能性がある。

ただし、各銀行(債権者)にとってより本質的な問題が、債務者(ギリシャ)の支払い能力の実態であることは言うまでもない。また企業経営の実質とその表現手段である財務諸表の乖離を埋める、言い換えれば財務諸表の不透明感を緩和すべく会計制度の改良の努力が、どのような会計制度が採用されるのかをめぐる不透明感を生んでしまっているのは、特に2008年の金融危機以降のグローバル金融市場の皮肉とも言えよう。

(3)「二極化する欧州の労働市場と財政負担」では2008年の金融危機以降の欧州各国の雇用情勢を振り返り、政策体系の相違と労働市場のパフォーマンスとの関係を整理している。無論、失業率の違い等は経済そのもののパフォーマンスの結果でもあり、各国の政策体系の良し悪しのみを反映しているわけではないが、例えばドイツにおけるワークシェアリングが、同国経済の底を浅くする上で奏功した可能性はあろう。ただし、失業率が20%を超えるスペインにおいて、ドイツ的政策が雇用削減を最小化する上でどの程度役に立つかは疑わしい。同国はギリシャ、ポルトガルとともに、財政緊縮が景気を押し下げることで失業手当給付等の財政支出が増大するというジレンマから抜け出しがたい状況が続こう。

一方、アイルランドは2009年から翌年にかけて、大々的な失業率の上昇を経験した。そして現在、同国はPIIGS の中で唯一、成長力再獲得のパスに乗りつつあるかに見える。労働市場の「フレキシブル」さが効果を発揮しつつある顕著な事例とみなせよう。

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