サマリー
◆先進国と新興国の金利差が縮小している。追加利上げを迫られる国が多い先進国に対し、新興国の多くは政策金利を据え置く判断を下しているためである。新興国が先進国よりも早く、金融政策の転換を図れている背景には、インフレのピークアウト、対外的なリスクに対する耐性の改善、資本フローの安定がある。ただし、その「改善」ペースは各国まちまちである。今後、利下げを探る新興国が増加するだろうが、そのタイミングには差が生じる可能性が高い。
◆物価と為替レートの推移、外貨準備の厚み、資本フローの安定性という観点から、利下げのタイミングがベトナムに続いて最も早かったのがブラジルであった。ブラジルと同様、米国との金利差が大きく為替レートが対ドルで上昇しているのはメキシコである。しかしメキシコでは、CPI総合・コアCPIともにコロナ禍前と比較して高い水準にあるため、利下げが視野に入ってくるのは2024年に入ってからだろう。
◆逆に、利下げの見通しが立ちにくい国は、CPI上昇率の高さが目立つトルコと南アフリカ(南ア)である。南アに関しては、経常赤字が拡大していることや資本フローが不安定であることを背景に、南アランドの対ドルレートに下落圧力が高まっている点についても注意が必要である。同国の金融政策決定会合では、インフレ見通しに深刻なアップサイドリスクがあると指摘されており、追加利上げの可能性も否定できない。
◆ベトナム以外のアジア各国中央銀行は、しばらく金利を据え置いて様子見のスタンスを維持するとみられる。各国の実質金利が低いことや、中国との緊密な関係が嫌気され、資本フローの動向に注意を必要とするためである。利下げのタイミングは、FRBの利上げ打ち止めが確実となり、資本流出リスクが非常に低くなってからと考えられる。
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