サマリー
◆2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を機にルーブルは対ドルで急落した。しかし3月上旬以降、ルーブル相場は持ち直しの動きを見せた。背景には、ロシアが資源輸出を続けることで、貿易黒字を維持できる見通しであること、そして資本流出規制が奏功したことが挙げられる。特に資本流出規制の影響は大きく、4月8日、ロシア中央銀行(中銀)が資本流出規制の一部緩和を発表すると、ルーブルは再び対ドルで下落した。
◆過去、資本流出規制が成功した事例にアジア通貨危機時のマレーシアが挙げられる。同国は、固定相場制の導入と外国為替管理の改定で、リンギ売り圧力を阻止した。その間、マレーシア当局は利下げによる貸出促進、財政による景気下支え、金融セクターの改革を実施し、同国のファンダメンタルズは改善した。その後、資本流出規制が緩和/解除されても大規模な資本逃避は見られなかった。
◆ロシアの場合、マレーシアの事例と同じような結末を望むことは難しそうである。まず、ルーブルの急落をこのまま避けられたとしても、サプライサイドに起因したインフレ圧力が残るためである。次に、時期尚早な資本流出規制緩和と、ロシア経済のファンダメンタルズ悪化で、ルーブルへの下落圧力がさらに増す可能性が高まっている。ルーブル安とインフレの進行が、資本流出規制の再強化につながる可能性も否定できない。
◆プーチン大統領にとって最大の脅威は、高インフレで民心が離反することにある。資本流出規制の緩和は、ルーブル安を誘発しインフレを助長する可能性がある。そして、長期に亘る資本流出規制もまた、高インフレ下で資産形成が困難となっている国民の反発を買うリスクを伴う。まさに、ロシア当局は苦境に立たされている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
李在明氏の「K-イニシアティブ」を解明する
大統領選で一歩リードしている李在明氏は、韓国経済と日韓関係をどう変えるのか
2025年06月02日
-
カシミール問題を巡る印パの内情と経済への影響
インドは米国の介入を快く思わないが、経済にとっては都合が良い
2025年05月23日
-
尹大統領の罷免決定、不動産問題が選挙のカギに
賃借人保護の不動産政策を支持する「共に民主党」の李在明氏が、大統領選挙で一歩リードか
2025年04月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日