サマリー
◆インドネシアは、「フラジャイル」とされる他の4か国と比較して、経常赤字や財政赤字の水準は低く、「フラジャイル国」として一括りにするのには一見抵抗がある。しかし、中国経済減速への市場の懸念や米国FRBによる利上げ観測が持ち上がるたびに、ルピアの売り圧力は高まる傾向にある。中銀との面談を踏まえ、国内外の政治経済情勢が目まぐるしく変化する中、インドネシア経済は本当に「フラジャイル」であるのかに焦点を当ててまとめたい。
◆自国通貨が売られやすい背景には、資源依存といったインドネシアの構造的な問題がある。いかに自国の競争力を高めていくかという課題に対し、新政権が打ち出した政策はインフラ整備を通した投資環境の改善である。燃料補助金削減はその資金確保のために実施され、歳入規模が限られる中にあっても、政府は財政赤字を拡大させずに成長分野への投資が可能となった。
◆これに対する評価は高く、新政権による構造改革への期待は一時高まった。しかしその後、新政権の実行能力に対する懐疑が期待を上回る傾向にある。政策方針と実際の政策運営実態の不一致が、対外的な信頼を損ね、インドネシアのリスク評価を悪化させている。これが、財政規律の維持、債務管理能力の強化といった、新政権のこれまでの取り組みをリスクにさらしている。
◆今後は、政策の一貫性欠如の払拭が課題である。中銀との面談によると、政策側はすでにその意識を持っているようだ。ここ数か月の間に発表された政策をみると、これまで散見されたポピュリズムに傾倒した政策から、本格的な構造改革に乗り出した兆候がある。今回の改革で対外的な評価を高めることができなければ、インドネシアがファンダメンタルズ以上に「フラジャイル」と見続けられることは必至であり、まさに正念場といえる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
なぜベトナムは「不平等協定」を結ぶのか
米国・ベトナムの「ディール」を解明する
2025年08月14日
-
米国抜きの連携拡大~CPTPPのEU拡大が意味すること
「反米色」を排除しながら自由貿易の枠組みを強化、アジアに恩恵も
2025年07月23日
-
インド経済は堅調か?2025年度Q2以降の見通し
個人消費とインフラ投資がけん引役。利下げが都市部の消費を刺激へ
2025年07月07日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日