サマリー
1月末に中国深センを訪問した。昨年40周年を迎えた改革開放のモデル都市である深センは、あらゆるサービスで“自動化”が進展していた。例えば、ファストフードチェーン店では注文は客がタッチパネルで行い、決済はタッチパネルに表示されたQRコードをスマホで読み込んで行う。店員は現金を触る機会がないため、調理や給仕に専念することが可能となる。また、AIや認識技術等を活用した無人バスも特筆に値する。無人バスは、運転手も搭乗した上での試行運転ではあったが、公道の路肩に駐車されていた自転車や自動車をうまくよけながら自動運行されていた。
無人コンビニや無人バスなどの自動化は、デジタライゼーションを通じて実現されたと言える。深センはもともとハードウェアの開発・製造で発展してきた都市である。近年、大手IT企業がインターネットをインフラとしてAIなども活用しながら、これまで発展してきたハードウェアにソフトウェアを組み合わせる(=デジタライゼーション)ことで自動化を進めてきた。こうした“自動化”は中国経済が直面する経済・社会の構造的課題の解決にもつながる。例えば、少子高齢化が急速に進む中国において、“自動化”は人手不足を緩和し、生産性を高めうるだろう。深センでの成功事例は、他の都市にとってもモデルケースとして活用されていくと考えられる。
他方で、自動化の進展の担い手であるIT企業に足元では変化が見られつつある。近年、テンセントやアリババや中国版Uberである滴滴(ディーディー)などIT企業が急速に発展したが、昨年後半からIT企業において“裁員潮”と呼ばれる“リストラの嵐”が吹き荒れている。小規模なIT企業だけでなく、上述の滴滴やeコマース大手の京東(ジンドン)、外食デリバリー大手の美団(メイチュアン)などで人員削減が公表されている。
IT企業における“リストラの嵐”の背景には、個人消費の落ち込み等による景気減速や様々な規制の強化に伴うIT企業の収益悪化などが挙げられる。深セン訪問時に、IT企業の従業員の人件費が近年急騰しているとの声があったことから、収益状況に応じたコストカットが必要になったとも考えられる。
いかなるビジネスにも栄枯盛衰がある。中国のIT企業は急速なビジネスの拡大を続けてきたが、上記の背景の中で構造転換期を迎えつつあるのかもしれない。ただし、過度な悲観は不要だろう。深センで見られたように“自動化”は中国にとって必要不可欠であり、IT企業への期待は大きい。また、企業の新陳代謝が図られることで、新たなイノベーションが起きる可能性もある。今後、中国のIT企業がいかにビジネスモデルを再構築し、利便性や生産性向上といった社会からの期待に応えていくかが注目されよう。(※1)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
中国:四中全会、関税、そして日中関係悪化
米関税下げで2026年の経済見通しを上方修正、ただし内需は厳しい
2025年11月25日
-
【更新版】中国:100%関税回避も正念場はこれから
具体的な進展は「フェンタニル関税」の10%引き下げにとどまる
2025年11月04日
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

