サマリー
2017年12月18日~20日に、2018年の経済政策運営の重点を議論する中央経済工作会議が開かれた。同会議は、まず、「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義経済思想」を過去5年間の経済実践理論の結晶と位置付け、長期にわたって堅持し、絶えず発展させなければならないとした。経済政策面でも習近平総書記のトップダウンが一段と明確になった。
さらに、同会議は、2020年までの3年間を小康(ややゆとりのある)社会の全面的完成のための決戦期として、重大リスクの防止、脱貧困、環境汚染防止の3点を最重視するとした。重大リスクの防止では、金融リスクの防止に重点が置かれている。国際決済銀行(BIS)統計によると、2017年6月末の中国の債務残高のGDP比は255.9%(うち非金融企業の債務残高のGDP比は163.4%)に達し、金融危機や景気の急減速が生じることが強く懸念されるレベルにまで積み上がっている。2018年もいわゆる「ゾンビ企業」の処理を推進するほか、金融機関のデレバレッジを目的とした監督・管理が強化されることになっている。
2018年の経済政策運営の重点は、①サプライサイドの構造改革の深化、②市場の様々な主体の活力増強、③農村振興戦略の実施、④地域協調型発展戦略の実施、⑤全面的開放の新たな枠組み形成の推進、⑥民生の保障・改善、⑦様々な主体による住宅供給、様々な方法による住宅保障、賃貸・分譲双方の住宅制度の構築、⑧エコ文明建設の推進加速、の8項目とされた。
①のサプライサイドの構造改革が重点の筆頭に掲げられるのは2年連続である。印象的なのは、「中国『製造』から中国『創造』への転換、中国『速度』から中国『品質』への転換、製造『大国』から製造『強国』への転換」の部分である。ここからは、2018年も「イノベーション」と「質的向上」がキーワードとなることが分かる。②では、市場の様々な主体の活力増強がうたわれたが、国有資本をより強く、より優秀に、より大きくするなど、国有資本や国有企業への言及に終始し、民間企業への言及はなかった。2期目の習近平政権が国有企業改革を重視する姿勢の表れともいえようが、一方で、政策の恩恵が国有企業に集中し、民間企業が蚊帳の外に置かれる「国進民退」という状況が深刻化するリスクを暗示している可能性があり、今後の政策運営には注視が必要であろう。⑦の住宅市場について、2016年の経済工作会議では、「住宅は住むためのものであり、投資・投機の対象ではない」として、投資・投機需要に牽引された住宅価格急上昇を抑制しようとしていたが、今回はこうした表現はなくなった。住宅販売面積は2017年1月~2月の前年同期比23.7%増から1月~11月は同5.4%増に減速し、70都市新築住宅価格は2016年11月、12月の前年同月比+10.8%から2017年11月は同+5.5%に低下するなど、政策目標が達成されつつあることがその背景にある。賃貸市場では、劣悪な住環境に置かれている農村からの出稼ぎ労働者やその家族が、安心して住めるような質と価格帯の賃貸物件が多く供給される必要があり、それには政府の関与が不可欠であろう。
(※1)本稿は、大和総研レポート『中国:経済工作会議と「習近平経済思想」』(2017年12月22日)を一部修正して、転載したもの。
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