サマリー
◆リーマン・ショック以降、中国の経常収支黒字の対GDP比は、大幅に低下した後、ほぼ横ばいで推移している。その背景には、リーマン・ショック直後の中国の貿易相手国の景気減速のみならず、人民元の実質実効為替レートの上昇や、中国の全要素生産性(TFP)(GDPの増加のうち労働や資本の投入によらない部分、技術進歩等)の上昇率の鈍化があるとみられる。
◆リーマン・ショック後、中国政府は投資中心の内需拡大策をとり、資本蓄積が促進された。発展途上国の先進国へのキャッチ・アップの過程では、資本蓄積が進むことが一般的であるが、中国に先んじて先進国にキャッチ・アップしてきた他のアジアの国・地域(台湾、韓国、マレーシア、タイ)と中国の資本蓄積を、一人当たり実質GDPが同程度の期間について比較すると、中国でより急速に資本蓄積が進んでおり、中国の資本装備率は、他のアジアの国・地域と同程度にまで上昇している。中国の急速な資本蓄積の背景には、中国の高い貯蓄率があると考えられる。
◆資本装備率の上昇は、全要素生産性(TFP)の上昇率の鈍化とあいまって、資本の収益性を低下させているとみられる。このことは、中国への対内直接投資が減少傾向となる要因にもなっていると考えられる。
◆このまま対内直接投資の減少傾向が続くと、対外直接投資に対する規制の執行を強化しても、直接投資収支が流入超にならなくなる可能性がある。また、経常収支の対GDP比は、外的要因等によって赤字になる可能性がないとは言えない水準と考えられる。
◆経常収支と直接投資収支は、比較的安定した外貨準備高の増減要因であると考えられる。従って、両者が資金流出超になると、本格的な緊縮的マクロ経済政策をとらざるを得なくなったり、変動相場制に移行せざるを得なくなったりして、中国の経済社会が混乱する危険性が高まる。中国政府が、投資中心の経済成長促進策を修正する等により、そのような国際収支リスクを低下させられるか否かを注視する必要がある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:飲食業景気指数が過去最低に
内巻(破滅的な価格競争)の悪影響は中小型店に集中
2026年04月24日
-
中国:2026年は政府成長率目標の下限か
ただし、中東情勢緊迫長期化で下振れリスク高まる
2026年04月21日
-
中国:26年1Qは予想外の堅調で5%成長
ただし、中東情勢緊迫長期化なら政府目標4.5%~5%成長は困難に
2026年04月17日
最新のレポート・コラム
-
上場オーナー企業と公開買付制度・大量保有報告制度の見直し
2026年5月1日に大量保有報告書等の提出義務が発生する場合も
2026年05月15日
-
デジタルアイデンティティ・デジタルクレデンシャルをめぐる取組みと実装技術の論点整理(第1部)
デジタルアイデンティティの基本像と、EUDIウォレットにみる制度化・実装動向
2026年05月14日
-
熊谷亮丸の経済・金融 Foresight 何故、わが国では潜在成長率が低迷しているのか?
高市政権は成長戦略を強化する方針だが、①労働、②資本、③TFP(全要素生産性)という3つの要素をバランス良く底上げする必要
2026年05月13日
-
AIが変える議決権行使助言業
中立性・客観性確保のための利用を訴求へ
2026年05月13日
-
中東リスクがASEAN進出企業に与える影響の差は、どのように生じているか?
2026年05月15日
よく読まれているリサーチレポート
-
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
-
いまさら人には聞けない 大量保有報告(5%ルール)のQ&A 【改訂版】
2024年金商法等改正法(2026年5月1日適用開始)を反映
2026年04月03日
-
検討進むガバナンス・コード改訂:2月案と4月案の相違点は
「解釈指針」は原則と一体という記述は削除。現預金への注目を避ける修文。
2026年04月10日
-
企業が意識すべきCGコード改訂案のインプリケーション
「金融資産」「実物資産」がコードに入った意味
2026年04月16日
-
日本経済見通し(2026年4月)
中東情勢緊迫による景気下振れリスク上昇で4月利上げは見送りか
2026年04月21日
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
いまさら人には聞けない 大量保有報告(5%ルール)のQ&A 【改訂版】
2024年金商法等改正法(2026年5月1日適用開始)を反映
2026年04月03日
検討進むガバナンス・コード改訂:2月案と4月案の相違点は
「解釈指針」は原則と一体という記述は削除。現預金への注目を避ける修文。
2026年04月10日
企業が意識すべきCGコード改訂案のインプリケーション
「金融資産」「実物資産」がコードに入った意味
2026年04月16日
日本経済見通し(2026年4月)
中東情勢緊迫による景気下振れリスク上昇で4月利上げは見送りか
2026年04月21日

