サマリー
◆軍と石油閥の重鎮の摘発により、習近平総書記の権力基盤は強固になり、積極的な改革を推進する体制が整いつつある。2013年11月の三中全会で打ち出された改革「深化」路線に回帰する可能性が高まったのである。具体的には、無駄な投資と借金を増やさず、潜在的な不良債権を増やさないこと、さらには既に限界に達している、投資に過度に依存した発展パターンから決別し、消費主導の持続的安定成長へと本格的に舵を切ろうとしているのではないか。
◆中国の経済運営を巡っては、経済の安定成長と改革深化の両立の難しさが指摘される。両立するのが好ましいのは言うまでもないが、二者択一であれば、優先されるのは雇用の安定を可能にする経済成長である。2015年3月に開催予定の全人代では、2015年の実質GDP成長率目標が7%前後に設定されるとの見方が多い。これが現実になれば、政府当局は、安定した雇用を損なわない成長率を7%前後と想定している、ということになる。それが損なわれそうになれば、さらなる景気下支え策が、躊躇されることなく、実施されよう。
◆2014年は、既得権益層への配慮からか、成長率目標は7.5%前後で据え置かれ、改革「深化」については、やや慎重な取り組みとなった感がある。中国にとって、2015年は仕切り直しの改革「深化」元年となるか、に注目している。その芽生え的なものと捉え得る事象も確認できる。例えば、周永康氏の党籍剥奪により、政治局常務委員の経験者は、腐敗や汚職では摘発されないという不文律は覆された。将来の不動産固定資産税導入のための「不動産登記暫定条例(意見聴取版)」の発表や、都市と農村で分断されている年金制度を一部統一する方針を発表したのも、難度が高くこれまで先延ばしにされてきた改革に取り組み、「変われない」中国を変えようとする動きなのかもしれない。
◆もちろん、改革深化はこれからが本番であり、期待先行で中身が骨抜きにされてしまう可能性は否定できない。2015年は、「変われない」中国が、本当に変わるのか、それを見極める年となろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米GDP 前期比年率+2.8%と加速
2024年4-6月期米GDP:内需主導での堅調さを維持
2024年07月26日
-
監査・ガバナンス強化へ回帰する英国
昨年撤回した監査強化方針を復活し、ガバナンス・コードも厳格化へ
2024年07月25日
-
女性がキャリアを築ける職場ほど、子どもを持ちやすい
健保組合ごとの被保険者・被扶養者の出生率と、その要因の多変量解析
2024年07月24日
-
GX経済移行債に期待されるインパクトレポーティング
~GXの理解醸成促進に向けて~『大和総研調査季報』2024年夏季号(Vol.55)掲載
2024年07月24日
-
盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
よく読まれているリサーチレポート
-
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
-
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
-
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日