サマリー
中国政府の経済減速に対する許容度が高まっている。7月15日に発表された4月~6月の実質GDP成長率は2四半期連続の減速となる7.5%となり、1月~6月の成長率も7.6%と年間成長目標である7.5%前後をわずかに上回る程度にすぎなかった。しかし、このような状況でも中国政府は景気刺激策よりも構造改革を優先する姿勢を崩していない。
この理由として、まず「構造改革に取り組む必要性が高まった」ことが挙げられる。最近特に懸念されるのは、銀行融資以外の資金調達手段(シャドーバンキング)からの資金が不動産投機や期待収益率の低い投資プロジェクトなどに回り、潜在的な不良債権を増加させることである。
加えて、「構造改革を行う余裕ができた」ことも上記の理由の一つであろう。余裕ができた要因としては、成長率が低下する中でも雇用が堅調であることが挙げられる。実際、2011年以降、経済成長が減速(2010年:10.4%⇒2011年:9.3%⇒2012年:7.8%)する中で、有効求人倍率は常に1倍を上回っている。この背景の一つとして考えられるのは、一人っ子政策の影響によって生産年齢人口の増加ペースが緩やかになっていることである。中国当局が生産年齢人口とする15~59歳の人口は、2000年から2005年までは5,190万人増加したが、2005年から2010年は2,319万人の増加となっており、そして2012年には建国以来初の減少(345万人)に転じたのである。
これまで中国政府は成長率の低下による失業者の急増を懸念していた。例えば、温家宝前首相は2010年に中国共産党の理論誌である「求是」の上で、「中国が目下置かれている経済の発展段階および労働需給からみれば、成長率が8%であることで初めて就業を安定させることができ、8%を下回ればすぐに問題が生じる」と述べていた。このような考え方は中国政府が構造改革を躊躇する要因の一つとなっていたとみられる。このため、2012年に成長率が13年ぶりに8%を割り込んだにもかかわらず、雇用が比較的に安定していたことは、2013年に政府が構造改革を進める姿勢を強く打ち出せた一つの契機になったはずである。
このように、雇用に関して社会を不安定化させるような大きな問題を抱えていない状況は、中国政府にとって目先の成長にとらわれず構造改革に集中できるチャンスであると考えられよう。
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