サマリー
11年2月に鉄道産業の急成長時代を築いた鉄道省トップ・劉志軍氏が汚職疑惑で更迭され、この時点で急速な拡張路線から安全重視への舵切りが求められていた。後任の盛光祖・鉄道相は、4月に鉄道事業運営に関して、エネルギー効率、安全性、収益性を重視する新指針を発表しており、温州の事故後の矢継ぎ早の対応策は、これらをより具体化した指示とも言えよう。拡張スピード重視から安全重視への軌道修正により、投資の調整懸念が高まっている。しかし、車両設計の安全性や運行システムの改良など「安全」や「質」の追求には、1単位当たりの投資コストの増加を伴う場合もあり、投資総額が大きく下方修正される可能性も考えにくい。鉄道産業の裾野は今後も広がるチャンスを残している。
事故後の8月8日、鉄道省は総額200億元のCPによる資金調達を実施した。利回りは5.55%と同条件の2月実施分3.92%から調達金利の上昇を余儀なくされたが、最高格付けが付与され、主に中国開発銀行など国有金融機関がこれを引き受けた。改革を進めつつ、苦境をこれまでと変わらない政府の護送船団方式で乗り越える構えなのだろう。中国には「高速鉄道」以外にも「原子力発電」や「大型旅客機」など政府が手塩にかけた、産業の高度化を象徴する重点産業がある。「安全」や「質」が内外の信認を得るまで向上できるか、鉄道省改革の行方が注目される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米GDP 前期比年率+2.8%と加速
2024年4-6月期米GDP:内需主導での堅調さを維持
2024年07月26日
-
監査・ガバナンス強化へ回帰する英国
昨年撤回した監査強化方針を復活し、ガバナンス・コードも厳格化へ
2024年07月25日
-
女性がキャリアを築ける職場ほど、子どもを持ちやすい
健保組合ごとの被保険者・被扶養者の出生率と、その要因の多変量解析
2024年07月24日
-
GX経済移行債に期待されるインパクトレポーティング
~GXの理解醸成促進に向けて~『大和総研調査季報』2024年夏季号(Vol.55)掲載
2024年07月24日
-
盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
よく読まれているリサーチレポート
-
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
-
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
-
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日