2018年06月14日
サマリー
◆中小企業の借入利率は、投下資本事業利益率と市場金利(10年国債利回り)の範囲で変動し、1990年代の急低下が落ち着いた後、2000年代は横ばいで推移していた。2012年以降、金融緩和策や収益力の回復を背景に再び低下している。これまでの動きをみると、市場金利の低下が中小企業の借入利率に波及するのは大企業に比べ遅く、2000年代で顕著だが下方硬直的でもある。理由として、中小企業の場合、格付の要素となる信用力指標の改善ペースが大企業に比べ緩やかで、水準も低いことが考えられる。適用利率の見直しの機会が少ない影響もあるだろう。
◆翻って、中小企業の借入金利の下方硬直性は、中小企業を主力取引先とする地域金融機関にとって重要な収益機会でもあると再認識させられる。マイナス金利の長期化、人口減少等による貸出残高の先細りが懸念される中、金利競争による貸出拡大の代わりに求められるビジネスモデルは、コミュニケーション密度を生かした積極的なリスクコントロールを旨とする貸出手法だ。たとえば実態把握の精度を高め、表面上の決算データから得られるよりも高い信用力を発見することで貸出先の間口を広げる。足下の信用力がそれほど高くない先に貸出のうえ、経営アドバイスや経営人材の紹介等を通じ積極的にリスクを低減することも収益拡大の機会になりえる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
地方の貸出金残高の動向は何で決まるのか
東京に集中する借入需要と全国に遍在する資金使途
2017年10月06日
-
どうして地域金融機関の再編が進まないのか
預金金融機関の行動原理と地方創生の課題
2014年12月04日
同じカテゴリの最新レポート
-
金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり
~預金を制するものは金融業界を制す~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
地方銀行の越境再編
その土台にある地域経済圏の再構築
2025年07月11日
-
ステーブルコイン推進へ舵を切る米国(後編)
GENIUS法案は如何にして米ドルの支配的地位を補強するか
2025年06月13日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日