2014年12月04日
サマリー
◆預金金融機関の本質は決済機能である。預金、経済活動で生じる資金移動を自行らの決済ネットワークの帳簿上の付け替えで完結するように営業エリアを設定する。仕入・販売の範囲が比較的狭い中小企業や個人を主要顧客とする地域金融機関は、彼らの経済活動の範囲を越えてネットワークを拡大するメリットが小さい。また、地元一番行は、当地の決済ネットワークを維持する役割を担っており、その公共性を重視するがゆえにハイリスクの融資は得意ではない。これを補完するように、リスクが高めの資金供給は二番手その他の地域金融機関が担っている。決済ネットワークの信用補完のためにあえてシニア・メザニンの階層構造が必要といえ、これも地域金融機関の再編が進まない背景と考えられる。
◆とはいえ、長期的にみれば再編は進むだろう。ただしその契機は人口減少ではなく、貸出先たる民間企業の事業利回りの低下と、貸出先そのものが少なくなったことにある。低水準の資金運用利回りで決済ネットワークの維持財源を確保するためにはそれなりの規模拡大が必要になるからだ。預金のほとんどを国債で運用するゆうちょ銀行の資金運用利回りは低く、その固定費を賄うために地銀64行を合わせたほどの規模が必要なことからも想像がつく。地域金融機関の預貸率はまだ余力があるが、地域や業態によるバラツキがみられ、低いところから再編が検討されるだろう。電力・ガスと同様、決済ネットワークの公共性をかんがみて預金・送金と貸出業務を分離すべきという議論が起こればその勢いは加速すると思われる。
◆いずれにせよ、再編は悪化する収益環境への対抗策としての側面が強い。再編によらず収益力を強化する方法はないだろうか。拡大する公共インフラ分野に積極的に取組む戦略もある。官民金利差問題の克服が条件となるが、地域金融機関の情報収集力とオーガナイズ機能を活かした地方創生への取組みもそのひとつである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
コロナ禍を踏まえた人口動向
出生動向と若年女性人口の移動から見た地方圏人口の今後
2024年03月28日
-
アフターコロナ時代のライブ・エンターテインメント/スポーツ業界のビジネス動向(2)
ライブ・エンタメ/スポーツ業界のビジネス動向調査結果
2023年04月06日
-
コロナ禍における人口移動動向
コロナ禍を経て、若年層の東京都一極集中は変化したか
2023年03月31日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
よく読まれているコンサルティングレポート
-
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
-
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
-
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
-
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
-
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日