2023年05月08日
サマリー
◆金融デジタル化は、金融包摂を促進する要因となることが期待されると同時に、金融排除を生み出す要因にもなり得ることが懸念される。金融排除が複雑な形をとって生じる先進国においては、金融デジタル化と金融包摂の肯定的な関係を自明視することはできない。金融デジタル化が社会的マイノリティに対してもたらし得る負の影響を抑制しながら、いかにして金融包摂に結び付けるかが重要な課題である。
◆本稿では、世界銀行のThe Global Findex Databaseの個票データを利用し、日本における個人のデジタル金融行動の有無と社会的属性の関連を検証した。2項ロジスティック回帰分析の結果、高齢層、教育水準の低い層、無業層、女性ではデジタル金融行動をとる確率が有意に低かった。これらの属性を持つ人々は、金融デジタル化に伴い、金融排除の状態に陥る潜在的なリスクが高い社会層と考えられる。社会的マイノリティとして格差や不平等に直面している層にも重なることから、社会的排除と金融排除の連続性が読み取れる。
◆金融デジタル化の推進にあたっては、社会的マイノリティを中心に、その流れから取り残されてしまう人々の存在を念頭に置くことが不可欠である。日本では、諸外国に比べて金融排除に関する研究蓄積が浅く、まずは詳細な実態把握が求められる状況であることが指摘されている。社会的排除との関連も視野に入れた包括的な施策の設計を基礎付けるものとして、幅広い調査・研究の進展が望まれる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
生成AI時代の人的資本経営と働き方の未来
『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
GPIFのESG指数投資削減に求められる説明責任
投資先企業の信任を失えば「市場の持続可能性向上」は実現不可能
2025年10月16日
-
デジタルMRVが変えるカーボンクレジットの品質評価
炭素価値と非炭素価値を統合する、多面的な品質評価の必要性
2025年10月15日
最新のレポート・コラム
-
公共施設マネジメントと公会計
〜機能する行政評価〜『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
トランプ2.0で加速する人手不足を克服できるか
~投資増による生産性向上への期待と課題~『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
欧州投資家保護規制強化とAM・WM業界への影響
~規制対応からビジネスモデルの変革へ~『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
誰が暗号資産(仮想通貨)を保有しているのか
~暗号資産関連サービス提供に向けた投資家保護・マーケティングへの示唆~『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
純債務って何?高市総理が目指す財政指標の意味
2025年10月24日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日

