2023年02月10日
サマリー
◆ビジネスを通じたLGBTQ+包摂の取組みが日本企業の間で急速に広がっている。本稿では、特に金融業界に焦点を当て、国内外の事例を概観した上で、企業調査データの計量テキスト分析を主な手法として、取組みの現状を紐解く。
◆金融機関によるLGBTQ+包摂の取組みは、約40年前の米国においてLGBTQ+コミュニティを顧客とした貯蓄貸付組合の設立から始まったと考えられる。しかし、取組みの変遷を辿ると、現在は商品・サービスを通じた特化型の取組みは少なく、ファイナンシャル・アドバイザーに対する教育等を通じて、金融アクセスにおける普遍的な差別の禁止と平等の保障を図ろうとする動きが主流になっているとみられる。
◆日本の事例をみると、金融業界では商品性やサービスの見直しを通じたLGBTQ+包摂が進んでいる。最も早くから対応を開始したのは保険業で、保険金の受取人に同性パートナーを指定できる保険会社は多い。銀行業では住宅ローンの商品性の見直しが進み、同性カップル向けのペアローン等がみられる。一方、証券業の取組みは限定的だ。
◆トピックモデルを用いて取組み内容の分類を行ったところ、①「性的指向と性自認(SOGI)に基づく差別禁止の明文化」、②「情報収集と啓発活動」、③「SOGIに配慮した職場環境整備」、④「社内研修の実施」、⑤「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)推進としての取組み」、⑥「同性パートナーの承認と包摂」、の6つのトピックが浮かび上がった。さらに、業種別に分析した結果、金融業界内での業種による取組みの状況や内容の違いが明らかとなった。
◆LGBTQ+のさらなる包摂に向けた今後の課題として、(1)LGBTQ+が直面する困難や、人権問題としての重要性に対する理解を深め、組織内で徹底させること、(2)LGBTQ+包摂のための社内環境を整備することが重要である。具体的な実践のあり方として、社内研修や勉強会の内容を職種別に深めていくこと、職場におけるDEI推進の重点課題の1つとしてLGBTQ+の包摂を位置づけることを提案したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
東証が求めるIR体制の整備に必要な視点
財務情報とサステナビリティ情報を統合的に伝える体制の整備を
2025年04月28日
-
サステナビリティ課題への関心の低下で懸念されるシステムレベルリスク
サステナビリティ課題と金融、経済の相互関係
2025年04月21日
-
削減貢献量は低炭素ソリューションの優位性を訴求するための有用な指標となるか
注目されるWBCSDのガイダンスを踏まえて
2025年04月17日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日