合意を得やすい地域でバイナリー発電導入を

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2013年05月09日

サマリー

2013年5月1日、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は「『小規模地熱発電及び地熱水の多段階利用事業の導入課題調査』手引書」を公開した。この手引書では小規模地熱発電を、70℃~150℃の温泉熱を利用する出力2,000kW程度以下の発電と位置づけて、こうした温度の温水を利用する「バイナリー発電」導入にかかわる手続きや課題、関連企業などを紹介している。


地熱発電導入が進まない背景の一つには、地熱発電に有望な地熱資源のある場所が、国立・国定公園の中や温泉地域に近接していることがあるといわれている。しかし、バイナリー発電に利用するような中低温の温水であれば、高温の地熱資源がない地域にも存在する可能性があり、発電所設置の検討対象が広がる。また工場排水などを利用することで、都市部に近いところでの発電も考えられる。
なお、従来のバイナリー発電は、低沸点の二次媒体に代替フロン、ペンタン、アンモニアなどを使う。代替フロンは京都議定書が指定する削減対象ガスである、ペンタンは可燃性ガスである、アンモニアは毒性がある、などの課題がある。しかし、最近、二次媒体として水を使う設備が開発されたという報道(※1)があった。まだ実験段階ではあるものの、バイナリー発電導入へのハードルを下げる期待が持てる。


地熱発電開発に対して温泉枯渇などを懸念する温泉関係者の中には、「二酸化炭素排出量削減を目的とする地産地消型の小規模温泉発電(たとえばバイナリー発電など)や、ヒートポンプによる温泉熱利用など、既存の温泉の余熱は有効に活用していくべき」と考えているものもいる(※2)。こうしたことから国立・国定公園や既存温泉への影響の少ないと思われる地域での、小規模な開発が可能なバイナリー発電導入は、地域の合意を形成しやすいと考えられる。高温の蒸気・熱水を利用する一般的な地熱発電の開発期間が約10年といわれるのに対して、バイナリー発電は数年と短い。再生可能エネルギー導入推進のためには、バイナリー発電の成功事例を積み上げていくことも重要だろう。


参考レポート:ESGの広場「再生可能エネルギーの地産他消に求められる合意形成」シリーズ


(※1)日刊工業新聞 2013年05月02日 「エネルギー総合工学研究所、水でバイナリー発電-安全・低い環境負荷」
(※2)社団法人 日本温泉協会 「自然保護・温泉資源保護・温泉文化保護の立場から『無秩序な地熱発電に反対』する要望書」(平成24年9月6日)

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