2013年01月11日
サマリー
2013年の仕事始めである1月4日、東京都は八丈島の地熱発電の規模を3倍に拡大するなどのモデル・プロジェクト検討を開始すると発表した(※1)。
現在稼働している日本の地熱発電所17カ所のうち、最後に運転を開始したのが、八丈島の地熱発電所である(1999年運転開始)。夜間など電力需要の少ない時はすべて、夏の昼間など電力需要の多い時は3割程度が賄えているという(※2)。しかし、見方を変えれば、多い時は全需要の7割程度をディーゼル発電で供給していることになる。そこで、地熱発電を増強すると共に、夜間の余った電力で揚水発電を行うことと合わせてディーゼル発電の割合を14%程度に抑えるのが今回の計画である(図表)。地熱発電と揚水発電をベース電源として、ディーゼル発電をピーク電源として位置付けることになる。さらに、観光振興など地元に利益を還元する方策も検討するとしている。

現在でも八丈島では、発電後の温水を冬場の温室の加温に利用する熱のカスケード(多段階)利用を行っているが、熱のカスケード利用を観光に活かしていることで有名なのがアイスランドである。地熱発電後の熱水を活用(※3)した広大なスパ「ブルーラグーン」には、年間40万人以上が訪れる。また、市街地の高台に設置した熱水タンクの一部には展望台を設けており、観光名所になっているという。
アイスランド特有の地形である地溝帯などでは熱水輸送用のパイプラインを地下埋設したり、地熱発電所の生産井の覆いを周辺の土を利用して同じ色にすることで目立たなくするなど、景観を損なわないような配慮もしている(※4)。
日本最大の地熱発電所である九州の八丁原発電所では、1977年の運転開始から累計した見学者が200万人を超えた(※5)。2011年度は前年度比6割近い増加だったという。見学者が増えることは地元の観光振興になるだけでなく、発電だけではない利点を地域住民などに広める効果も見込めよう。
島嶼部である八丈島は、ディーゼル発電の割合を減らすことによるメリットが大きいため、地熱発電を導入する動機が強いと思われる。そのため、八丈島に比べて、このようなメリットが少なく感じられる他地域には、そのまま当てはめることはできないかもしれない。しかし、八丈島の取り組みが、他地域の参考になるような地熱発電と観光業との共生の新たなモデルケースになることを期待したい。
(※1)東京都環境局・八丈町 報道発表資料 平成25年1月4日 「八丈島における地熱発電の大幅拡大に向けて検討を開始します!」
(※2)東京電力 八丈島地熱・風力発電所 「ワンポイント講座」
(※3)日本ではバイナリー発電を除いて、発電した後の熱水を温泉として利用することはできない。
(※4)環境省 平成23年10月3日開催「地熱発電事業に係る自然環境影響検討会」の第3回資料
(※5)九州電力大分支社 記者発表 平成24年9月24日 「八丁原発電所 見学者累計200万人達成について」
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