2012年12月20日
サマリー
オートリブ(Autolib’)とは、フランスの電気自動車(以下、EV)のカーシェアリングサービスのことで、2012年12月で開始1周年を迎えた。オートリブは、借りた場所と違う場所に乗り捨てできる、基本料金(日・週・月・年別)を払って利用登録し、利用時間に応じた従量料金を支払う、充電のコストは利用料に含まれている、といった特徴がある。
オートリブ導入の目的は、「温室効果ガスの排出削減」、「自由な移動のための新たな選択肢の提供(新しい公共交通機関)」、「雇用創出」で、パリ市が助成している。オートリブ運営会社のボロレによると、オートリブの貸し出し返却兼充電ステーション(以下、ステーション)は、パリ市街圏に約700カ所、200~300メートルおきにある。登録者は約4万5,000人、EVは1,750台、参加都市112で、新規登録者も参加都市も増えている(※1)。最終的には、EV3,000台、ステーション6,600カ所を目指している(※2)。
1回あたりの走行距離は10~15kmで45分~1時間の利用が最も多く、約80%がパリ市内の利用と、いわゆる「街乗り」となっている。最近は女性の買い物利用が急増しているといい、パリの新しい公共交通機関として定着しつつあるといえよう。ステーション間のEV移動や電話サポートなどを担う要員が700人おり、雇用増加にも一定の効果をあげているといっていいだろう。
一方、日本でもカーシェアリングの利用が増加している。公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団の2012年1月の調査によると、ステーション数は4,268カ所(前年比1.5倍)、車両台数は6,477台(同1.7倍)、会員数は167,745人(同2.3倍)となっている。ただし、調査対象となっているサービスで提供される自動車はガソリン車が多く、オートリブのように乗り捨てはできない。
地域住民の新しい交通手段となるような乗り捨て可能なEVのカーシェアリングは、愛知県豊田市(Ha:mo(ハーモ)、超小型EV)、大阪府(大阪EVアクションプログラム)で、実証実験として行われている。
若者のクルマ離れといわれるが、乗用車のエネルギー消費減少には結びついていない(図表)。EVで、かつ、必要な時のみ利用する、という使い方に変われば、運輸部門の半分以上を占める乗用車による環境負荷を下げる効果は高いだろう。地下鉄やバスなどの公共交通機関が発達しているパリで、EVによる乗り捨て型カーシェアリングが「街乗り」として定着しつつあるということは、同じような規模の日本の都市でも普及する可能性はある。
しかし、日本では、オートリブのようなスピード感のある多数のステーション設置、利用増加は見込めない。企業ごとにサービスしているため、初期コストのかかるステーションを、まとまった数、設置することが難しいためである。
また、大阪府の実験では、当初、違法駐車を懸念されて許可が下りなかったという。サービス全体でみれば車の数よりステーション数が多くても、利用状況によっては、あるステーションに集中してしまい、その結果、違法駐車の可能性があることがネックとなった。この問題についてオートリブでは、ICTを活用して空き情報を把握できるようにしたり、EV移動の要員を雇用したりして対処している。希望ステーションが満車でも、利用者はスマートフォンなどを使って、すぐ近隣に別のステーションが空いていることがわかるようになっている。
鶏と卵の関係にも似ているが、ステーション数・EV数が多くないと、この運用も効果が出ないと思われる。日本でEVのカーシェアリングを根付かせるには、会社や業界を超えて産官で協力し、サービス開始時のEVやステーション数を多くする必要があろう。

(出所)「エネルギー白書 2010」(1973年度、1990年度)と「エネルギー白書2012」(2010年度)を基に大和総研作成
(※1)2012年10月31日 Smart City Week2012 「EVシェアリング、オートリブのビジネスモデルと成功の秘訣」ボロレ チェアマンアドバイザー Didier Marginèdes 氏の講演などより。
(※2) オートリブのウェブサイト(2012年12月17日閲覧)
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