2012年07月13日
サマリー
7月2日、節電所に関する取り組みが関西電力で開始された。節電所とは、省エネは減らしたエネルギー分を発電するのと同じこと、ととらえる概念で、ネガワットとも呼ばれる。需要家が、省エネ機器に替えたり自ら発電したりするなどして、電力会社からの供給を減らす(=電力会社に対する需要を減らす)ことを指す。関西電力の取り組みは2種類。7月2日から9月7日までの間、関西電力管内の大口顧客(※1)を対象とする「ネガワットプラン」(※2)と、中部電力、北陸電力、中国電力管内の大口顧客を対象とする「ネガワット取引」(※3)である。関西電力は、需給逼迫が予想される時に需要を減らしてくれる顧客を募り、それに対して顧客が減らせる電力量や単価などを提示する。関西電力は、提示された単価が安価な順に顧客を選定する。提示通りに顧客が需要を減らすことが、関西電力にとって需要削減になる。ネガワット取引の場合は、各地域で選定された顧客の減らした需要分の電力が、各地域の電力会社から関西電力に融通される仕組みである。報道によると(※4)、ネガワット取引の初日は、需給が逼迫しなかったため、取引はなかったという。
一方、東京電力では、ピークカットやピークシフトを行うためにBEMS(Building Energy Management System)を利用する顧客の、支援やとりまとめを行う事業者(BEMSアグリゲーター)を3月に選定し、6月に契約している(※5)。選定された事業者のビジネスプランは、「電力の見える化」「デマンドコントロール(遠隔で需要家の機器を監視・抑制)」「機器や自家発電設備の管理支援」というメニューが多い。事業者は、東京電力の依頼に応じて顧客(需要家)の需要削減を支援する。東京電力との契約通りに、顧客の需要が削減されれば、事業者に対価が支払われる。関西電力も、BEMSアグリゲーターとの協業によるピーク抑制を予定している(※6)。さらに中部電力でも、BEMSアグリゲーターを活用した需要抑制を実施すると発表している(※7)。どの電力会社のサービスも、需給逼迫時(ピーク)の需要削減を目的としているため、緊急時用の節電所といえる。
このように、需給状況に応じて電力供給側が電力料金の設定などを行い、需要家が電力使用を抑制するなどの反応をすることをデマンドレスポンス(※8)という。経済産業省では、デマンドレスポンスシステムの標準化など、スマートハウスやスマートビルを普及させるための工程表を9月中に策定するとしている(※9)。いずれ日本全体、ゆくゆくは世界でデマンドレスポンスビジネスを展開していくのであれば、早いうちからシステムの標準化を考慮しておいた方がいいのは、いうまでもない。
通年(総量)で需要を減らすための対策の一つに、未利用エネルギー(図表)の活用がある(※10)。例えば、北海道では札幌駅南口にあるデパート、オフィス、ホテル、商業施設などに対して、ガスコージェネレーションで電力と融雪用の温水をつくり、排ガスや蒸気を利用して冷暖房や給湯を行っている。中部国際空港では、海水の温度差を利用して熱交換器で冷却水を製造している。先ごろ開業した東京スカイツリーでも、地域冷暖房(※11)のために「地中熱ヒートポンプ」(※12)という節電所を利用している。地中熱ヒートポンプ導入にあたった東武エネルギーマネジメントでは、従来式システム(※13)との比較で、エネルギー消費量が年間約48%削減、CO2排出量が年間約40%削減されると試算している。平成19年度の調査ではあるが、建物単体にBEMSを導入した場合と比べて、地域に熱供給する場合は9.9%、未利用エネルギーを活用している地域熱供給の場合は20.6%の省エネ率になるという結果が出ている(※14)。つまり未利用エネルギーの利用は、節電所とみなすことができる。そして、これらの節電所は、電力の大消費地である都市部に存在するものも少なくない。
図表 主な未利用エネルギー
(出所)資源エネルギー庁 「未利用エネルギーの面的活用」をもとに大和総研作成
東日本大震災以降の電力不足に対して、再生可能エネルギーやシェールガスなど、いかに電力を「つくる」かが注目されているが、いかに電力を「使わない」かという節電所の効果も忘れてはならないだろう。
(※1)特別高圧の顧客と、高圧のうち契約電力500kW以上の顧客
(※2)関西電力 プレスリリース 2012年5月28日 「法人のお客さまを対象とした電力需給の安定化に向けた新たな取組みについて」
(※3)関西電力 プレスリリース 2012年6月21日 「関西電力管外の大口のお客さまを対象としたネガワット取引について」
(※4)日本経済新聞Webサイト 2012年7月3日 速報 > 地域ニュース > 近畿 > 記事 「関電の『ネガワット』、初日の取引はなし」
(※5)東京電力 プレスリリース 平成24年6月6日 「『ビジネス・シナジー・プロポーザル』採択事業者との業務提携契約の締結について ~今夏に向け採択事業者との連携によるピーク需要抑制策を実施~」
(※6)関西電力 法人のお客さま 「BEMSアグリゲーターとの協業による電力需給の安定化に向けた取組み」
(※7)中部電力 プレスリリース 2012年6月26日 「今夏の需要対策における新たな取り組みについて」
(※8)デマンドレスポンスは、必ずしも需要側が即時応答することを要件としていない。季節や時間帯で違う電気料金メニューもデマンドレスポンスの一つに数えられる。
(※9)経済産業省 ニュースリリース 平成24年6月22日 「JSCAスマートハウス・ビル標準・事業促進検討会第1回会合を開催しました」
(※10)一般社団法人 日本熱供給事業協会のWebサイトには、多数の事例が掲載されている。 「あなたの街の地域熱供給事業」
(※11)ある地域内のビル・マンション・商業施設などに冷暖房や給湯を行うこと、そのシステム
(※12)地下数メートルの温度は年間を通して15℃程度と一定しているため、この温度と地上の温度との差を利用して、夏は冷房、冬は暖房を行う仕組み
(※13)冷熱は空冷チラー(機械などの温度を一定に保つ装置、冷却に使われることが多い)、温熱はガス焚きボイラーを使用するものを想定
(※14)経済産業省資源エネルギー庁 平成19年度 未利用エネルギー面的活用熱供給適地促進調査報告書 概要版 「未利用エネルギー面的活用熱供給の実態と次世代に向けた方向性」(平成20年3月)
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