GRIが次世代ガイドラインG4開発のための調査開始

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2011年10月07日

サマリー

CSR報告書の世界的なガイドラインを提供しているグローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)が、次世代のガイドライン(通称、G4)に関する調査(パブリックコメント募集)を開始した。期間は11月24日までの90日間である。今後のスケジュールは、2012年にドラフト第1版、2012年末にドラフト最終版、2013年5月に正式版を公開予定となっている。

現在のガイドラインG3.1は2011年3月23日に公開されたもので、前バージョンであるG3から、人権、コミュニティ、ジェンダーに関するパフォーマンス指標等に、小幅な変更が加えられている(※1)。もともとGRIガイドラインは、トリプル・ボトムライン(経済だけでなく、環境、社会の側面も評価しようという考え方)の思想で作られており、環境のみならず、幅広く企業の非財務情報を開示するためのガイドラインとなっている。しかし非財務情報報告に関するガイドラインは、GRI以外にも複数出てきており、整合性がとれていない。そのためG4では、他のガイドラインや行動原則と協調をとることで、効率的な報告書作成を支援しようとしている。また投資家、評価機関等にとって使いやすい、財務と非財務のパフォーマンスデータを統合した報告書作成に役立つことも目指している。

G4開発にあたって協調している他のガイダンス等(国際規格ISO 26000:組織の社会的責任に関するガイダンス(※2)、OECD多国籍企業行動指針等)を見てもわかるように、欧米や途上国等の海外では社会的な課題、例えば児童労働や労働慣行等の人権に焦点があたり始めている。こうした社会的な課題は、日本国内では社会問題化されていないため重視されておらず、報告書においても開示が少ない。一方、環境面では、日本政府や企業の先進的な取り組み(省エネ法や温対法等の規制(※3)、自主行動計画等の自主的な温室効果ガス削減活動)に基づく情報がGRI等の既存のガイドラインでは参考文献となっておらず、日本企業に不利になっている面も否めない。

GRIを採用する企業は、世界的にも日本国内でも増加している(※4)。海外で上場していなくても、サプライチェーンをたどれば取引先が海外企業である可能性は高く、将来的にはG4への対応を求められることも十分、考えられる。G4のパブリックコメントには、各国独自のガイドラインや社会的課題のうち、経営上、何を重要と考えるかも設問に含まれており、日本の考え方や先進的な取り組みをアピールするチャンスといえよう。日本の弱み(社会面における活動と情報開示)を補強し、強み(環境面における活動と情報開示)で世界をリードするために、パブリックコメントを通じてG4開発へ参加することは検討に値するだろう。


(※1)大和総研 山口渉 「企業の社会的責任に関する開示への動き GRI3.1~人権、コミュニティ、ジェンダー開示が始まる」 
(※2)大和総研 ESG用語解説 「ISO 26000」 
(※3)それぞれ正式名称は「エネルギーの合理化に関する法律」「地球温暖化対策の推進に関する法律」。
(※4)『大和総研 大和総研調査季報 2011年1月新春号 vol.1 「ESG情報開示の現状と課題~情報を有効に活用する視点から~

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