米国の資産運用会社に対する反トラスト法訴訟の行方

争点となるパッシブ運用を通じた水平的株式保有の影響

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サマリー

◆​2024年、米テキサス州を中心とする11州の司法長官がBlackRock、State Street、Vanguardを反トラスト法違反で提訴した。3社は米国の複数の主要な石炭企業の大株主となっている。原告側は、株主としての影響力を用いて石炭の生産量を減少させ、石炭価格を人為的に上昇させたと指摘している。そして、消費者等が不利益を被り、3社は利益を得たと主張している。

​◆米国では2010年代半ば頃から、パッシブ運用の拡大による機関投資家の株式保有状況(水平的株式保有もしくは共同保有)が公正な競争を阻害しているのではないかという指摘が学術界からなされていた。今回はこの問題に共和党の反ESGが加わり、訴訟に至ったものと考えられる。今後審理が行われる中で、水平的株式保有/共同保有が石炭価格に与えた影響の有無をどのように立証するかが注目される。

​◆水平的株式保有/共同保有の問題は過去にEUにおいても議論されたことがある。ただし、米国・EUどちらにおいても、水平的株式保有/共同保有が競争に与える影響に対して、見解は分かれている。機関投資家が議決権行使や対話を通じて企業のコーポレートガバナンスの改善に貢献してきた側面や、パッシブ運用の拡大が個人投資家の手数料の抑制や投資機会の拡大などにつながっていることもあり、水平的株式保有/共同保有に対して規制対応を行う弊害の方が大きいと判断されている。

​◆日本はGX戦略やダイバーシティ&インクルージョンの取り組みなどが引き続き推進されており、米国の状況とは異なる。水平的株式保有/共同保有の影響も現時点では限定的と考えられる。ただし、将来的に政策保有株式の削減が進み、機関投資家による株式保有が増えれば、水平的株式保有/共同保有が競争に与える影響について検証が必要な状況が生じるかもしれない。​

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