前回のコラム(※1)でミャンマー銀行業界を概説した翌月、ミャンマー中央銀行(以下、CBM)は「クレジット・リスク管理規制」を発表した。同規制は貸付実行時の担保に関する基準について、大きな変更をもたらす内容を含んでいる。というのも、これによれば各銀行は担保の種類に応じた評価手法を設定するなど、独自に信用リスク管理体制を確立し、それをCBMに申請しなければならない。
CBMが申請を審査し、管理体制が十分であると判断すれば、当該銀行はその申請手法等に基づき独自に信用リスクを取ることができるようになる。これまで与信の際に、銀行に対して「強力な担保力:Strong Collateral」を求めてきた従来の担保規制と比べると、銀行の自由度は格段に増したといえるだろう。実際、規制を作成した部門(金融機関規制・反マネーロンダリング部)に対する筆者のヒアリングでは、新規制下では理論的には無担保も容認され得るとの考えが示されている。CBMでは担保規制のみならず、金利規制も含めた金融自由化の機運が高まっているように強く感じられた。
ただし、少々気になる点があるのも事実。新規制は「CBMの審査を通る」ことを前提とした条件付きの規制緩和のためだ。新規制のリスク管理を審査する部門は、規制の作成部門と異なる金融機関監督部となる。規制作成部門に「担保規制が緩和されるための具体的な条件」や「審査の基準」等を問うたところ、「管轄外なのであずかり知らない」との返答。続いて審査部門に同様の質問をしたが「現在、詳細は決まっておらず、銀行の申請内容を踏まえて検討する」とのことであった。要するに、金融自由化に対する本気度が規制作成部門と審査部門とで微妙に異なっているのが実情だ。担保規制緩和の実現可否は、現実には審査部門(=金融機関監督部)の力量や自由化に対する熱意次第ということだろう。
もちろん審査部門の動向以上に、各銀行が説得力のある信用リスク管理体制を構築できるかどうかは一層重要なポイントである。貸出金利の上限規制があり(現行は年率13%が上限)、ほとんどの市中銀行がこの上限金利水準で融資している現状では、銀行にとって担保条件を緩和するインセンティブに乏しい。規制緩和後直ちに率先して担保条件を緩和する個別行はそれほど多くないだろう。
しかし筆者は、この新たな与信拡大機会を活用し、各行が早期に本格的な信用リスク管理体制を構築するスタートとすることを期待したい。担保重視の体制を改め、担保に依存しない実効性ある信用リスク管理モデルを導入するのは決して容易ではない。融資先の収益モデルやビジネスモデルの評価、業界分析マクロ的な環境分析、倒産・貸倒れ確率に係るデータ整備など、なすべきことは山積みである。
今後、金利自由化や預貸比率規制の撤廃など自由化が進展した際に、スムーズに担保条件を緩和した融資業務を展開するためには、各行は現時点から信用リスク管理体制の構築に向け、しっかり準備していくべきだ。担保条件を緩和した上での与信管理の早期確立如何が、今後の銀行の大きな競争力の差となって表れてくるであろう。

(※1)「競争が激化するミャンマー銀行業界 現状とその課題」
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