東南アジアは、世界経済における存在価値を高めつつある。国連統計によると、2000年時点における東南アジアのGDPは、6,143億ドル(世界全体の1.8%)に過ぎなかったものの、2013年には2兆4,501億ドル(世界全体の3.2%)にまで成長してきた(※1)。東南アジアは、今後もさらなる経済成長が期待される地域であろうが、成長に伴うマイナスの側面として、格差問題を抱えている国も多い。
例えば、近年のタイにおける政治的混乱をもたらした要因のひとつとして、都市と農村の経済格差が指摘される。単純には論じられないのかもしれないが、都市部を主な支持基盤とする反タクシン派と農村部を主な支持基盤とするタクシン派の対立は、換言すれば、経済成長による恩恵を受けた層と恩恵を十分受けていないと感じている層における富の分配を巡る問題とも言える。
こうした状況は、タイに限定される問題なのだろうか。表1に示すように、東南アジア諸国(ただし、東ティモールを除く)において、総就業人口に占める農業就業人口比率がタイの水準(46.2%)よりも高い国として、カンボジア(64.6%)、ラオス(74.4%)、ミャンマー(66.1%)、ベトナム(61.9%)の4カ国が挙げられる。
他方、総人口に占める農村人口がタイの水準(65.2%)よりも高い国は、カンボジア(79.7%)、ミャンマー(66.2%)、ベトナム(67.7%)の3カ国である。ラオスの農村人口比率は63.5%であり、タイに比べれば低いとは言え、人口の過半数が農村で生活している状況にある。
従って、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの4カ国は、タイと同様、農業・農村の相対的地位が一定程度ある社会と言っても過言ではあるまい。もっとも、国ごとに政治システムは異なるため、一括りに論じるのは困難であるものの、政治的混乱に陥っているタイの現状における様々な指標は、周辺地域における動向を考察する上でも有益となろう。
上記4カ国のうち、ラオスでは人民革命党、ベトナムにおいては共産党が一党体制を敷いているのに対し、カンボジアおよびミャンマーではタイと同様、複数の政党が認められている。これらを踏まえると、特に、カンボジアおよびミャンマーにおいては、農業・農村開発が周辺諸国に比べ、より重要であることが示唆される。政権を担うには、大票田からの支持を得ることが必要になると推察されるためである。

都市と農村の格差を是正する上で、比較的短期間に目に見える効果を示す方法があるとすれば、所謂ばらまき政策であろう。タイの事例で言えば、インラック政権(タクシン派)によって実施されたコメ担保融資制度(事実上のコメ買取制度)がその一例である。しかし、こうしたばらまき政策は、国家財政を圧迫させかねない側面もあり、安定的な財源が確保されなければ、持続的な政策とは言えない。このため、一過性のばらまき政策を反面教師としつつ、農業および関連産業そのものの能力を向上させ、他産業に匹敵する付加価値を生み出す方向に誘導していくことが求められる。
我が国において提唱された「農業の6次産業化」(農林水産業(1次産業)が加工(2次産業)および流通・販売(3次産業)と連携・融合する取組みであり、1次産業×2次産業×3次産業=「6次産業」とされている)は、農業・農村開発におけるひとつの政策の在り方として、東南アジア等においても本邦関係者が活躍する余地のある領域であろう。
ただし、留意したいのは、持続可能性を確実なものとするための市場ニーズの見極めと、現地の実情に応じたバリュー・チェーンの構築である。コンセプトとしての6次産業化を掲げつつ、地道かつ現実的なビジネスモデルによる農業・農村開発が東南アジアの安定的かつ持続的成長への近道かもしれない。この意味において、民間の知見・ノウハウ等を各種施策に反映させる仕組みが求められている。
(※1)United Nations “National Accounts Main Aggregates Database”
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