2015年03月25日
親会社が、株式公開買付け(Take Over Bid、以下「TOB」という)により、子会社株式を一定程度買い集めた上で、全部取得条項付種類株式等の制度を活用して、完全子会社化する方法を、二段階買収という。二段階買収の二段階目としては、様々な方法があるが、税務上の取り扱い等を理由に、全部取得条項付種類株式を用いる方法や現金対価でない株式交換によるのが、一般的である。
本稿においては、TOB及び全部取得条項付種類株式により、完全子会社化を行う場合において、本年5月施行予定の会社法改正が与える実務上の影響について、考えてみたい。
全部取得条項付種類株式を用いる場合、通常、以下のステップを経る。
- 子会社において、株主総会の特別決議により、全部取得条項付種類株式を発行するための定款変更を行う。また、普通株式に全部取得条項を付すための定款変更を行う。
- 子会社が、株主総会の特別決議により、全部取得条項付種類株式の全てを取得し、株主に取得の対価として新たな種類株式を交付し、親会社以外の株主の株式が1株未満になるようにする。
- 子会社は、1株未満の端数を買い取り、その対価を各株主に交付。
二段階買収の二段階目として、全部取得条項付種類株式を用いた場合、親会社の株主構成に影響を与えない。一方、現金対価でない株式交換のスキームを使った場合には、親会社の株主構成が変更されることになる。
会社法改正により、全部取得条項付種類株式について、開示の強化(事前開示手続・事後開示手続)・株主による取得の差止請求制度の創設等、少数株主保護が強化される予定となっている。また、価格決定の申し立てにおける通知・公告等の手続が整備された。
更に、新たなキャッシュ・アウト制度として、総株主の議決権の10分の9以上の株式を有する株主(以下「特別支配株主」という)が、他の株主等に対して、保有株式等の全ての売渡しを請求する制度(以下「特別支配株主の株式等売渡請求」という)が設けられる。
本手法は、子会社における株主総会の特別決議が不要であること、1株未満の端数処理手続が不要であること、新株予約権等のキャッシュ・アウトが可能であること等のメリットがあるため、新たな二段階買収の手法として活用される可能性がある。
会社法改正後、TOB及び全部取得条項付種類株式により、他社を完全子会社化しようとする会社は、以下の点に留意する必要がある。
- 全部取得条項付種類株式を使う場合、事前開示手続等の準備が必要となる。また、新たに差止請求制度が設けられたため、そのスケジュールも考慮する必要がある。
- TOB後、10分の9以上取得が確実な場合、特別支配株主の株式等売渡請求制度の可否を検討する。
今回の会社法改正は、監査等委員会設置会社のように、コーポレート・ガバナンスに係るものが注目されがちであるが、前述したとおり、M&A実務に影響を与えるものも含まれている。
弊部においては、多数の株式評価・グループ再編に加え、M&Aアドバイザリー業務も行っている。
このインサイトをお読み頂いたことも一つのご縁であり、皆様のお役に立つ機会があれば、幸甚である。
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