AI×ブロックチェーンが拓くエージェント経済

AIエージェントが金融市場に参加する日 〜Agentic AI時代を支える注目技術〜

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  • デジタルソリューション研究開発部 チーフデータサイエンティスト 石井 最澄

金融業界では近年、資産のトークン化をはじめとするブロックチェーン活用が広がっています。こうした中、透明性、耐改ざん性、プログラマビリティーといった特徴を有するブロックチェーンと、AIが持つ高度な分析・自動化能力を組み合わせた「AI×ブロックチェーン」が、新たな技術領域として注目されています。本稿では、この領域が金融分野で存在感を高めている背景を整理し、AIによるトークン化資産の取引の概要、その実現を支える技術要素について解説し、今後の金融インフラへの示唆について考察します。


AI×ブロックチェーンが注目される背景
両分野における近年の注目トピックとして、AIの分野ではAIエージェントが、ブロックチェーンの分野では米国の資産運用大手BlackRockのトークン化ファンド「BUIDL(BlackRock USD Institutional Digital Liquidity Fund)」が挙げられます。

AIエージェントは、外部のデータソースや各種ツールと連携し、自ら情報を収集・分析するといったことが可能なAIであり、2024年頃から注目され始めました。従来のAI(生成AI)は、利用者からの指示に対して情報を生成・回答することが主な役割でしたが、AIエージェントは利用者の指示をもとに、自律的に計画を立て、実行し、環境に適応しながら行動することが可能です。AIエージェントに関連する製品・サービスの提供が進み、国内企業においても業務への活用が検討・実施されるようになっています。

BUIDLは、米国短期国債などを主な投資対象とするトークン化マネー・マーケット・ファンドで、2024年3月にローンチされました。ファンドの持分をブロックチェーン上のトークンとして発行・移転する仕組みを取り入れています。ブロックチェーンを活用しているため、あらかじめ承認された投資家との間でほぼ24時間365日の資産移転が可能とされている点、配当が日次で計上される点などが特徴です(※1)。現実資産(RWA:Real World Assets)のトークン化市場に関するデータを集計・提供するRWA.xyzによると2026年8月10日時点での運用資産残高は約26.8億ドルです(※2)。

ブロックチェーン上で管理されるトークン化資産は、所有権や取引条件をデジタル化して記録できるほか、透明性、データの耐改ざん性、あらかじめ定められたルールに基づく取引や決済の自動化(プログラマビリティー)といった特徴を有しています。これらはAIと高い親和性を持ちます。AIによる高度な推論や判断にはデータの信頼性が不可欠であり、透明性や改ざん耐性を持つブロックチェーンはその基盤の一つとなり得るためです。また、両者がより密に連携することで、AIエージェントが持つ高度な分析・自動化能力の下で、あらかじめ人が設定した権限や条件の範囲内で、AIエージェントが取引や決済の一部を自動的に実行する仕組みの実現も期待されています。このような背景のもと「AI×ブロックチェーン」が、新たな技術領域として注目されるようになりました。国内でも、自民党の次世代AI・オンチェーン金融構想PT(木原誠二座長・平将明座長代理)がこれらに係る提言を取りまとめ(※3)、2026年5月19日に自民党政調審議会で承認されるなど、政策面での議論も活発化しています。


AIエージェントはどのように取引するのか
では、AIエージェントとブロックチェーンが結び付くことで、金融取引は具体的にどのように変化するのでしょうか。従来、人が担ってきた情報収集、分析、投資判断、発注、決済といったプロセスは、AIエージェントが外部データや各種ツールを活用することで、部分的に代替・高度化されていく可能性があります。特に、株式、債券、不動産などの資産がトークン化されると、AIエージェントの判断をウォレットやスマートコントラクト(※4)と連携させ、取引指示から決済、資産移転、記録までを一体的に処理できるようになります。

具体的な取引の流れとしてはまず、AIエージェントは投資家から指示を受けると、市場動向、ポートフォリオなどを分析し、投資判断や資産配分の最適化を投資家に提案します。投資家がその内容を確認・承認すると、AIエージェントはあらかじめ権限を付与されたウォレットを通じてブロックチェーン上で取引を実行します。するとスマートコントラクトの条件に従って決済と資産の移転が行われ、取引結果がブロックチェーン上に記録されます(図1)。 

図1. AIエージェントによるトークン化資産の取引

AIエージェントによる取引を支える注目技術
顧客の要望をもとにAIエージェントが取引を行う際、市場の分析から法規制の確認、決済にいたるプロセスは多岐にわたり、それぞれに高度な専門性が求められます。そのため、単一のAIエージェントがすべてを担うのではなく、複数のエージェントが連携しながら取引に係るプロセスを遂行していくことが予想されます。トークン化資産の売買を例にすると、投資機会を探索するエージェント、市況データを収集・分析するエージェント、規制やコンプライアンス要件を確認するエージェント、発注内容を作成するエージェント、そしてウォレットを通じて決済や資産移転を実行するエージェントが、それぞれの責務を担いながら協調して動きます。そういった状況下においては、① AIエージェント間の連携を実現する標準仕様、②AIエージェント間での価値交換を実現する決済標準規格、③ AIエージェントへの決済権限委譲を実現する仕組み、などが必要となります。


① AIエージェント間の連携を実現する標準仕様「A2A(Agent2Agent)」
当該分野で注目されている技術として、異なるAIエージェント間の相互運用を実現するための標準仕様であるA2A(Agent2Agent)が挙げられます。A2Aは、Googleが2025年4月に発表した、AIエージェント間通信のためのオープンプロトコルです(※5)。AIエージェントが専門領域ごとに細分化され、エージェント同士の協調が不可欠となる将来を見据えて設計されており、異なるフレームワークやベンダーのAIエージェント間における相互運用性を高めることを目的としています(表1)。2025年6月にはLinux Foundation配下のプロジェクトとして移管され(※6)、中立的なガバナンスのもとで開発・普及が進められています。

表 1.  A2A (Agent2Agent) の設計原則

(出所)A2A design principlesの内容を基に大和総研作成

② AIエージェント間での価値交換を実現する決済標準規格「x402」
AIエージェント同士の連携や外部システムとの接続の標準化が進むと、次に重要となるのが「エージェントがどのように対価を支払うか」という点です。エージェント経済においては、AIエージェントが外部APIやデータ、計算リソース、専門サービスなどを自律的に利用する場面が増えると想定されます。その際、人間が都度決済を行うのではなく、AIエージェント同士が少額の対価を自動的に支払うマイクロペイメントの仕組みが求められます。
こうしたニーズに応える技術として注目されているのがx402です。x402は、これまでほとんど利用されてこなかったHTTPステータスコード「402 Payment Required」を活用し、Web通信に決済機能を組み込むためのオープンな決済プロトコルです。HTTP通信そのものに決済の仕組みを組み込むことで、「リソース要求 → 支払い要求(402) → 支払い実行 → リソース取得」という一連の処理をHTTPの枠組みの中で完結させることができます(図2)。さらに、x402をステーブルコインなどの暗号資産と組み合わせることで、AIエージェントは人間を介さずに少額決済を自動で実行できるようになります。これにより、API利用料やデータ利用料などをリアルタイムで支払えるようになり、AIエージェント同士やサービス間での自律的な取引が可能になります。以上のことから、x402はエージェント経済を実現する中核技術として期待を集めています。

(注) Facilitatorは決済代行事業者に近い役割を担うサービスです。買い手(Client)と売り手(Server)の間にたち、支払いの検証と決済処理を担当します(注7)。Facilitatorが当該処理を担うことで、開発者はブロックチェーン特有の検証/決済処理を意識することなく、オンチェーン決済の実装が可能になるとされています。
(出所)How x402 works(注8)の内容を基に大和総研作成

(注7)x402, “Facilitator - x402”, 2026/8/10最終閲覧
(注8)Coinbase, ”How x402 works”, 2026/8/10最終閲覧

x402の運営は、米国大手暗号資産取引所のCoinbase や米国のセキュリティ・クラウドサービス企業「Cloudflare」などが中心となって行ってきましたが、2026年4月にLinux Foundationに移管されました(表2)。今後は、AIエージェントやアプリケーション向けのインターネットネイティブな決済標準として、オープンで中立的なガバナンスのもと標準化が進められていくことが予想されます。


表 2. x402の動向

(注9)Coinbase, “Introducing x402: a new standard for internet-native payments | Coinbase”, 2025/5/7
(注10)Coinbase, “Coinbase and Cloudflare Will Launch the x402 Foundation: Building the Future of Agentic Commerce”, 2025/9/23
(注11)The Linux Foundation, “Linux Foundation is Launching the x402 Foundation and Welcoming the Contribution of the x402 Protocol”, 2026/4/2
(注12)The Linux Foundation, “Linux Foundation Announces Operational Launch of x402 Foundation to Standardize Internet-Native Payments for AI Agents and Applications”, 2026/7/14

③AIエージェントへの決済権限委譲を実現する仕組み「AP2(Agent Payments Protocol)」
従来の決済では、利用者が信頼できるサービスであることを確認し、取引内容を理解した上で、自ら支払いの意思表示として「購入」ボタンを押します。しかし、AIエージェントが自律的に取引を行う環境では、利用者が取引相手の信頼性や取引内容を一件ずつ確認し、個別に承認することは現実的ではありません(表3)。そのため、利用者に代わってAIエージェントが一定の条件のもとで決済を実行できるよう、決済権限を適切に管理し、委譲内容を検証可能にする仕組みが重要となります。

表 3. AIエージェントによる取引の課題

(出所)Announcing Agent Payments Protocol (AP2) (※13)の内容を基に大和総研作成

AP2(Agent Payments Protocol)は、こうした課題に対応するための決済権限委譲プロトコルです。AP2では、「誰の意思で、何を、どの条件で購入したのか」を暗号的に証明する仕組みとして、「Mandate」と呼ばれる概念を導入しています(表4)。AP2 ver0.1のMandateは、ユーザーの指示や許可内容を表現する改ざん耐性の高いデジタル委任状であり、検証可能な認証情報(VC: Verifiable Credentials)の形式で署名・発行されます。これにより、「誰が」「どの条件で」「どの支払いを許可したのか」といった情報を検証可能な形で記録することが可能となります。

表 4. AP2 ver0.1におけるMandateの種類と責務

AIエージェントは付与されたMandateの範囲内でのみ取引を実行するため、ユーザーが意図した権限を越える決済を抑制できます。さらに、取引の実行履歴とMandateをひも付けることで、取引が正当な権限に基づいて行われたことを後から検証することも可能となります。このようにAP2は、AIエージェントによる取引における認可(Authorization)、真正性(Authenticity)、説明責任(Accountability)の課題に対応し、安心して決済権限を委譲できる環境の実現を目指しています。

AP2は、Googleによって2025年9月に発表されたオープンプロトコルであり、A2A(Agent2Agent)の拡張として利用できる決済・権限委譲レイヤーとして位置付けられています。発表時には60を超える企業・団体が参画を表明(※13)しており、American Express、JCB、Mastercardなどの国際決済ブランドに加え、PayPal、Coinbase、Salesforce、ServiceNowなども参加しています。こうした幅広い業界プレイヤーの参画からも、AIエージェントによる取引の信頼性や相互運用性を支える標準基盤として、AP2が大きな期待を集めていることがうかがえます。2026年4月にはGoogleからFIDO Alliance(※14)へAP2が寄贈され、プロトコルの管理・発展は特定企業主導ではなく、業界横断で推進される体制へと移行しました(※15)。

AP2の最新動向における注目すべき事項として、FIDO Allianceへの寄贈と同時に公開されたAP2 v0.2が挙げられます。自律的なAIエージェントによる取引を想定した「Human Not Present」決済への対応など、新たな機能が追加されています。今後は、業界横断での議論を通じた機能拡張や仕様の高度化が図られ、正式版のリリースに向けた取り組みが加速していくものと考えられます。


おわりに ~金融インフラ競争の次の主戦場~
AIエージェント、ブロックチェーン、そしてこれらを支えるA2A(Agent2Agent)、x402、AP2(Agent Payments Protocol)といった技術の進展は、金融分野における新たなサービスやビジネスモデルの創出につながる可能性を秘めています。将来的には、人が中心となって担ってきた情報収集、分析、取引、決済といった一連のプロセスの一部を、AIエージェントが相互に連携しながら自律的に実行する世界が現実のものとなるかもしれません。

一方で、その実現に向けては、セキュリティやガバナンスの確保、ウォレットの管理、AIによる意思決定の透明性・説明可能性の向上、さらには規制や法制度との整合性など、多くの課題も残されています。特に暗号資産の取引では、ブロックチェーン上で承認・記録されたトランザクションは取り消しが困難です。そのため、送金先や送金金額、取引内容の妥当性を事前に確認・検証する仕組みが求められます。また、暗号資産の管理権限はウォレットの秘密鍵に依存しており、これらが漏えいすると第三者による不正送金が可能となってしまいます。秘密鍵の漏えい防止は重要課題であり、その対策として、マルチシグ(複数署名)や、HSM(Hardware Security Module)を導入し秘密鍵を厳格に保護する、といった対策も検討する必要があります。

AIエージェントとブロックチェーンの融合がもたらす「エージェント経済」は、金融分野における新たなサービスの可能性を探る上で重要なテーマです。実際に、自民党の次世代AI・オンチェーン金融構想PTが取りまとめた提言では、金融を成長投資分野として確立することを掲げ、AIとオンチェーン技術を活用した次世代金融インフラの構築を提唱しています。提言では、取引、決済、契約、融資といった従来は個別に行われていた経済活動が、AIとブロックチェーンによって連結化・自動化され、24時間365日稼働する社会の実現が展望されています(※3)。こうした世界では、AIエージェントが顧客の意向に基づき情報収集から取引、決済までを一貫して支援するだけでなく、トークン化預金やステーブルコイン、トークン化資産などを活用した新たな金融サービスの創出も期待されます。資産運用、融資、決済といった金融機能がシームレスに連携し、より利便性が高く効率的な金融サービスへと発展していく可能性があります。こうした金融サービスの進展を見据え、AIエージェントが適切な管理のもとで取引に参加できる市場やエコシステムをどのように支えていくかも、金融機関の今後の検討課題となります。AIエージェントの性能競争にとどまらず、AIエージェントが安全かつ信頼性高く取引や決済を行える基盤の整備が、競争力を左右する要素の一つとなる可能性があります。

今後は、AI×ブロックチェーンに関する標準技術や関連エコシステムの動向に加え、実際のユースケースの創出や制度整備の進展にも注目しながら、その発展可能性を継続的に見極めていく必要があります。AIエージェントとブロックチェーンの融合が金融サービスのあり方をどのように変革していくのか、その変化を捉え、新たな価値創出につなげていくことが金融機関にとって重要なテーマとなるでしょう。

(※1)Securitize, ”BlackRock USD Institutional Digital Liquidity Fund (BUIDL), Tokenized By Securitize, Surpasses $1B in AUM”, 2025/3/13
(※2)RWA.xyz, ”Tokenized U.S. Treasury Funds”, 2026/8/10最終閲覧
(※3)自由民主党 政務調査会 デジタル社会推進本部 次世代AI・オンチェーン金融構想PT, ”デジタル社会推進本部 次世代 AI・オンチェーン金融構想PT 提言”, 2026/5/19
(※4)事前に設定した条件やルールが満たされた際、人手を介することなく自動執行される機能
(※5)Google for Developers, “Announcing the Agent2Agent Protocol (A2A)”, 2025/4/9
(※6)The Linux Foundation, “Linux Foundation Launches the Agent2Agent Protocol Project to Enable Secure, Intelligent Communication Between AI Agents”, 2025/6/23
(※13)Google Cloud Blog, “Announcing Agent Payments Protocol (AP2)”, 2025/9/17
(※14)パスワードに依存しない安全で使いやすい認証方式の標準化を推進する業界団体
(※15)News from Google, “Google donates Agent Payments Protocol to FIDO Alliance”, 2026/4/28

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