AIエージェントは人々の生活をどう変えていくのか(後編)

エージェンティック・ファイナンスの現在と将来展望

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2026年09月03日

  • イノベーション企画部 ITリサーチャー 服部 匡起

はじめに
「AIエージェントは人々の生活をどう変えていくのか(前編)」(※1)では、「使う(購買)」という観点から、商品検索から比較・購入・決済・配送管理までを代行するエージェンティック・コマースと、その前提となるプロトコルの重要性を論じた。
後編では、前編で取り上げなかった「貯める・増やす・借りる(貯蓄・投資・借入)」、「備える(保険)」といったファイナンス分野に着目する。

AIエージェントという新しい取引形態の登場
金融庁の調査によれば、2025年12月末時点でNISA口座数は2,800万口座を突破し、金融商品購入の裾野は拡大しつつある(※2)。一方で、日本証券業協会の「新NISA開始後の利用動向に関する調査報告書」では、金融経済教育を受けた経験のない人が77.3%にのぼり、多くの人が十分な投資教育を受けていない状態にある(※3)。そこで、AIがユーザーにアドバイザリーサービスを提供することが期待されるが、これまでのAI活用は金融機関のファイナンシャルアドバイザー(FA)が利用するものやFAの業務プロセスを支援するものが中心であった(※4)。
こうした中、方向性の異なる動きとして2025年後半から、顧客のAIエージェントが金融サービスに直接接続し始めた。本稿では、この動きを二つの経路に整理したうえで、顧客側のAIエージェントが金融サービスに接続する事例を概観し、AIエージェントが金融サービスの利用形態にどのような変化をもたらすのか考察する。


エージェンティック・ファイナンスへ至る二つの経路
AIエージェントが顧客に代わって行動するには、顧客の状況を把握するための「情報収集」と、実際に様々な手続きを行うための「実行」の二つが必要になる。これは前編で取り上げたエージェンティック・コマースにおける商品価格や在庫情報の取得および発注・決済の実行と同じ構造である。
以下ではそれぞれの経路の具体的な事例を見てみよう。

経路A:AIエージェントによる情報収集-ChatGPTのFinances機能
AIエージェントによる情報収集の一例として、OpenAIが本年5月に米国市場で開始したChatGPTの新しいサービス「Finances」を取り上げる。米国のChatGPT Pro/Plus(※5)のユーザーは金融データ連携事業者(アカウントアグリゲーター)Plaidを通じて銀行や証券会社の口座残高、取引履歴などの金融情報を取得し、それに基づく支出分析、投資余力の把握などをChatGPTに指示できる(※6)(図1)。もっとも、金融機関から情報を取得・集約し、資産全体を把握しようとする仕組みは従前から存在している。日本においても家計簿アプリや資産管理アプリが同様の機能を提供している。
ここで注目すべきは、日常的に利用するChatGPTに情報が集約されるようになった点にある。従来のアプリケーションは主に個社の金融取引データからユーザー像を把握していたが、FinancesではPlaidから取得した金融情報と、ユーザーの関心、目標、ライフスタイルといった過去の対話、インターネット上にある各種金融商品の説明文書等の情報を基に、分析・回答が可能となっている。
ただし、現時点でアカウントアグリゲーターが取得できるデータには限りがある。例えば、保険契約の内容や保有不動産の評価額といった情報は一般的にアグリゲーションの対象ではない。そのため、これらの情報を活用するにはユーザーがChatGPTに入力する必要がある。
また、OpenAIはFinancesについて、規制対象となる投資助言に該当するような情報提供は行わないと明示している。今後、より広範なデータへのアクセスが実現し、あわせて規制上許容される情報提供の範囲が拡大すれば、Financesはさらに高度な機能を提供できる可能性がある。

図1 OpenAI Financesの概要

ファイナンス分野に手を伸ばすGoogleの動き
Googleは本年6月、金融情報サービス「Google Finance」を約20年ぶりに大幅アップデートし各国でベータ版から正式版に移行した(※7)(米国では昨年8月にAI搭載のベータ版を公開していた)。Geminiの技術をベースとした専用のAIが搭載され、自然言語でポートフォリオ分析や、市場動向を定期的に要約・配信するブリーフィングを指示することができる。また、自分のポートフォリオや資産状況は自然言語で指示するかCSV、PDF等のファイル形式やスクリーンショットで読み込ませる必要がある。なお、Googleの公式ブログ7では、Google FinanceとGeminiの会話履歴の連携については明示されていない(※8)。
今回Google Financeに追加された機能は、既存の資産管理サービスにも見られるものであり、経路Aの動きと比較するとデータ連携などの面で進化の余地も残されているように思われる。しかし、検索や情報提供を中核としてきたGoogleが、このタイミングで金融サービスに再度注力している点は注目に値する。前編で取り上げたエージェンティック・コマースのように、金融分野でも生成AIベンダー間での競争が激化することが予想される。

経路B:AIエージェントによる取引-証券会社と顧客のAIエージェントの直接接続
昨年11月以降、主に米国市場で、証券会社が顧客のAIエージェント向けに取引環境を整備する事例が出始めている(表1)。
仕組みとしては、証券会社がMCP(Model Context Protocol)(※9)に対応したサーバー(MCPサーバー)を用意し、顧客がClaudeやChatGPT、CursorなどのMCP対応のAIエージェントをMCPサーバーに接続する。証券会社は、OAuth等を通じてユーザーに対してAIエージェントの接続許可を確認し、AIエージェントが顧客本人から権限委譲を受けた正当なクライアントであることを確認する。
ここまでの準備段階が完了したのち、AIエージェントはユーザーからの指示に基づいて、MCPサーバー経由で市場データや口座残高情報の取得、発注を行う。
AIエージェントにどこまでの権限を与えるかは各社で対応が異なる。例えば、TradeStationは注文確定前にユーザーに承認を求める。一方で、AIエージェントに自動的に注文執行させる事例も見られる。こうした違いは、AIエージェントに対する権限付与、監視、責任範囲をどのように設計するかという新たな論点を含んでいると言えよう。なお、TradeStationをはじめ、今回取り上げる事例では、AIエージェントに自動執行を認める場合であっても、権限を付与する主体はユーザーとなっている。このため、ユーザーにはAIエージェントに付与する権限の範囲を適切に管理することが求められる。一方で、AIエージェントによる取引に関する責任の所在は、各社の利用規約や法規制等を踏まえて個別に整理する必要がある。
また、プログラムを利用した自動売買(システム/アルゴリズムトレード)とは異なる点にも留意する必要がある。自動売買はあらかじめユーザーが設定したルールに基づいて、発注・執行する仕組みである。一方、AIエージェントを活用した取引では、人間とAIエージェントが自然言語で対話しながら、市場情報の収集・分析や投資候補を選定し、AIエージェントがユーザーを代行して注文を行う。

表1 海外の一般投資家向け証券会社におけるAIエージェント取引環境の整備事例

Alpaca: Alpaca Launches Official MCP Server for AI Trading(2025年11月20日)
TradeStation: TradeStation Securities Releases MCP Connection, Allowing Users to Connect Trading Accounts with Third-Party AI Platforms(2026年1月13日)
Public: Public Becomes the First Brokerage To Introduce AI Agents for Your Portfolio(2026年3月31日)
moomoo: Moomoo Launches Agentic Investing with Introduction of Moomoo API Skills(2026年4月24日)
Webull: Webull Launches Model Context Protocol, Enabling Investors to Trade Through AI in Plain Language(2026年6月11日)
Robinhood: Robinhood is Now Open to Agents(2026年5月27日、暗号資産取引は8月に追加)
IBKR: Interactive Brokers Integrates AI into Client Portfolios - Informed by Agentic Technology, Controlled by the Client | Interactive Brokers LLC(2026年6月1日)

ここで、具体例として米国の大手オンライン証券Robinhoodの事例を取り上げる。同社は、本年5月にAgentic Tradingを開始した(※10)。このサービスでは、ユーザーが用意したAIエージェント(同社によるデモ動画(※11)ではAnthropicのOpus 4.6を利用)にRobinhoodのMCPサーバーを登録し、AIエージェント専用口座Robinhood Agentic Accountを接続したうえで、自然言語で投資アイデアの探索、投資内容に関する指示を行う。その後、指示を基に銘柄選定、ポートフォリオを提案し、ユーザーに承認されれば、自動的に株式の注文が行われ、ユーザーのスマートフォンに約定結果のプッシュ通知が送信される(図2)(※12)。これによりユーザーの投資理論を学習させたAIエージェントと相談しながら取引するといったことも可能となっている。
AIエージェントが利用できる資金は、Robinhood Agentic Accountに事前に入金された金額に限定されている。そのため、仮にAIエージェントがユーザーの意図と異なる取引を行ったとしても、その影響がRobinhood Agentic Account内に収まる設計となっている。

図2 Robinhood Agentic Tradingの概要

関連した話題として、AIエージェントが取り扱うデータの標準化にも触れておきたい。
ここまで取り上げたMCPは、AIエージェントと金融機関を接続するためのプロトコルであり、AIエージェントが取引を行う際の銘柄コード(ティッカー)、注文数量・価格、約定結果等の金融データは証券会社が独自に定めている。
前編ではAIエージェントが複数のECとやり取りするためのプロトコルとしてACPとUCPを取り上げた。証券取引でも同様に、AIエージェントが複数の証券会社や金融サービスを横断して利用するためには、こうした金融データの標準化も必要となる。
こうした中で、MCP上で金融商品の識別子、注文、市場データ、リスク管理等を共通化する具体的な仕様として、オープンソースプロジェクトのAPEX Standard(※13)が公開されている。公式サイトでは、自らをAIエージェント時代のFIX(Financial Information eXchange)(※14)と表現している。ただし、現時点では正式公開前のアルファ版の段階にあり、業界標準として広く採用されるまでには至っていない。他にもLinux Foundation傘下のFINOS (Fintech Open Source Foundation)が、AIエージェントが利用する業務フロー、データ、スキル、統制等の共通仕様を検討している(※15)。

経路A/Bの現状と整備に伴う将来像
では、経路A(情報収集)と経路B(取引の実行)が整備された場合、金融機関が提供するサービスにはどのような変化が生じるのだろうか。ここまでの議論を基に、両経路の現状と両経路が整備された先の将来像を表2のとおり整理した。

表2 経路A/BにおけるAIエージェントの現状と将来像

これまでは金融機関の担当者やFA、あるいは金融機関が提供するアプリやウェブサイトが経路A/Bを担ってきた。しかし、今後両経路が整備されることで、一部のサービス提供主体は顧客が用意したAIエージェントへ移行する可能性がある。
この変化を具体的にイメージするため、FA業務を例に考えてみたい。
現状は、投資助言規制や顧客リレーションの観点から、AIエージェントが担う範囲は限定的である(※16)。また、FAが顧客の預金・証券・保険などの金融資産全体を把握し、税制や相続も踏まえた総合的な助言を行うには、多くの時間とコストを要する。そのため、総合的な助言を提供するFAサービスでは、主に富裕層をターゲットとしてサービスを提供することが多かった。
しかし、本稿で整理した二つの経路は、この前提を変える可能性がある。経路Aは複数の金融機関にまたがる情報収集や資産把握のコストを引き下げる。また経路Bは、提案後の売買や各種手続きの実行コストを引き下げる。両経路の整備によって、従来は人手に依存していたFAサービスの一部を低コスト化し、新たな顧客層にアプローチできる可能性がある。

スイッチングコストの低下と金融機関間競争の変化
ここまでは、経路Aと経路Bの整備による既存サービスの変化を見てきたが、AIエージェントの普及は、将来的に金融機関間の競争関係にも影響を与えると考えられる。
経路Aの将来像では、AIエージェントがユーザーの資産・負債・収支や過去の対話履歴、さらにはインターネット上の商品情報を踏まえて情報収集や比較、選定まで行う。その結果、複数の金融機関を調査する負担は軽減され、自身の状況に合致した金融商品を容易に比較検討することが可能となる。
さらに、経路Bで金融機関を横断したデータ連携や取引実行環境の整備が進めば、AIエージェントが経路Aで比較・選定した商品の購入あるいは契約を、手続き面まで含めて容易に実行することが可能となる。
このように両経路が整備されることで、金融サービスを利用する際の商品選択や購入手続きといったスイッチングコストが大幅に低下すると考えられる。こうした時、金融機関間の競争は一層激化することが予想される。これまで顧客の情報収集コストや手続きコストによって維持されていた優位性は低下し、商品性や価格競争力そのものがより直接的に比較されるようになるだろう。
例えば、金融機関との継続的な取引関係の起点となる住宅ローンでは、AIが借り換えプロセスを簡素化する可能性が指摘されている。モルガン・スタンレーは本年8月のレポートで、顧客側がAIを活用することによる住宅ローン借り換えに伴う探索コストや手続きコストの低下と影響を試算した。レポートの中では、住宅ローン金利が5.5%まで低下した場合、借り手側のAI活用が緩やかに進む場合でも、約2.1兆ドルの借り換えが発生するとしている(※17)。

おわりに
ここまでAIエージェントが金融機関に様々な影響を及ぼし始めていることを見てきた。
その中でも、重要な影響の一つは、AIエージェントによって金融サービスを利用・変更する際のスイッチングコストが大幅に低下する可能性がある点だと考える。
例えば、銀行等の預金取扱機関は、給与振込などの「お金の入り口」と住宅ローン返済やクレジットカード引落口座などの「お金の出口」を自行口座に集約し、メインバンク化を進めてきた。これは、顧客との継続的な関係を維持し、安定的な預金を確保するための基本戦略である(いわゆる「粘着性の高い預金」の獲得)。顧客は、より高い金利の預金口座やより好条件な借入先を見つけたとしても、口座の開設・解約や引落口座の変更には手間がかかるため必ずしもメインバンクを変更するとは限らなかった。
しかし、AIエージェントが顧客に代わって情報収集や比較検討を行い、さらには資金移動や各種手続きまで支援するようになれば、こうしたスイッチングコストは大きく低下する可能性がある。その結果、金融機関は従来以上に商品性や顧客体験、付加価値そのもので選ばれることになるだろう。
エージェンティック・ファイナンスは金融機関と顧客との関係性や競争構造そのものを変化させる可能性を秘めている。今後は「顧客に選ばれる金融機関」であると同時に、AIエージェントが容易に接続・利用できる環境を整備し「AIエージェントに選ばれる金融機関」であることも重要になるだろう。

(※1)服部匡起 AIエージェントは人々の生活をどう変えていくのか(前編)エージェンティック・コマースの現在と将来展望(大和総研 特集記事)(2026年7月6日)
(※2)金融庁 NISA口座の利用状況に関する調査結果の公表について(2026年7月3日)
(※3)日本証券業協会 新NISA開始後の利用動向に関する調査報告書(2026年5月)
(※4)内野逸勢、竹内正幸、坂本博勝 ウェルステック企業へと変貌を遂げる米国大手金融機関~AI活用のオペレーティングモデルの進化~(大和総研調査季報2026年春季号)(2026年4月24日)
(※5)サービス開始時点では米国内のProユーザーに限定して提供。Plusユーザーへの拡大は本年6月25日。
(※6)実際に連携されるデータは、口座の残高および取引履歴、投資残高、借入状況に限定されている。また、送金や住所変更など情報参照以外の機能は利用できない(銀行のウェブサイトで手続きを行うように促される)。
(※7)Google Our latest Google Finance upgrades, including a new app (2026年6月25日)
(※8)なお、Geminiとの過去の会話を参照して回答するよう質問を行うと、GeminiとFinanceは接続されていない旨が回答される。
(※9)MCPに関しては「AIエージェントとは?2025年度上半期のアップデートを解説 - WOR(L)D ワード|大和総研の用語解説サイト」を参照。
(※10)Robinhood Robinhood is Now Open to Agents(2026年5月27日)
(※11)Robinhood Agentic Trading Demo (Robinhood公式YouTubeチャンネル)(2026年6月15日)
(※12)一部の注文では発注前にユーザーの承認が必要となるが、Robinhoodは承認を求める具体的な条件を公表していない(参考:Robinhood now lets your AI agents trade stocks | TechCrunch)。
(※13)APEX Standard APEX Standard — The Open Protocol for Agentic Trading
(※14)証券取引情報を金融機関や取引所間で交換するための国際標準規格。
(※15)FINOS Industry-wide, industry-led operational contracts for agentic financial services
(※16)内野逸勢、竹内正幸、坂本博勝 ウェルステック企業へと変貌を遂げる米国大手金融機関~AI活用のオペレーティングモデルの進化~(大和総研調査季報2026年春季号)(2026年4月24日)
(※17)Morgan Stanley The Overlooked AI Disruption in Home Financing(2026年8月7日)

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