市区町村の基金残高が増えたのは財政に余裕があるからか
インフラ老朽化問題の帰趨によっては減少に転じる可能性も
2017年08月23日
サマリー
◆ここ10年にわたって市区町村の基金積立残高は増加傾向にあり、直近の水準は90年代初期のピークを上回る。ただし近年の急増については震災復興の影響が大きい。自治体のキャッシュフローと純額ベース普通建設事業費の推移から、基金の積み上がり傾向は普通建設事業費の長期的な抑制傾向と関係があると考えられる。
◆団体区分別に見ると、政令指定都市をはじめ大規模自治体は、基金の実残高が大きく、市区町村全体の基金積み上がりに対する影響が大きい。とはいえ自治体の財政規模に比べれば積立て水準がとりわけ高いというほどではなく、財政に余裕があるとは言い難い。
◆他方、町村をはじめ小規模自治体の財務状況は良好である。積立て水準は増加傾向を辿り、財政規模と比べた水準も高い。小規模自治体は住民1人当たり行政コストの水準が高いが、財政補てんが奏功してそれをさらに上回る経常収入を確保している。もっとも、積立金等の絶対水準が低いため、市区町村の基金全体に対する影響は大きくない。
◆公共インフラの老朽化等を背景に普通建設事業費が今後拡大傾向を辿り、基金の積み上がり傾向が一服し減少に転じるシナリオもあり得る。今後人口減少が確実視される中でむやみに拡大しないよう機能再編やダウンサイジング、官民連携等を検討しつつ慎重に対処してゆくべきだろう。小規模自治体については、行政サービスの効率性と持続可能性の論点もあることから、財政調整機能の再点検を含め今後の議論が待たれる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年05月25日
肥大化する業務
その業務は利益に貢献しているのか
-
2022年05月24日
欧州経済見通し まとわりつく負のオーラ
ウクライナ侵攻の長期化によって、不透明さを払拭できず
-
2022年05月24日
日本経済見通し:2022年5月
経済見通しを引下げ/サービス消費等の「伸びしろ」が景気を下支え
-
2022年05月24日
中国:ゼロコロナ政策下の中国経済の行方
年後半は明確に回復も22年は4.5%程度の実質成長にとどまると予想
-
2022年05月25日
「制度」と「執行」の狭間にある闇
よく読まれているリサーチレポート
-
2022年03月22日
日本経済見通し:2022年3月
ウクライナ情勢の緊迫化による日本・主要国経済への影響
-
2022年01月24日
円安は日本経済にとって「プラス」なのか「マイナス」なのか?
プラスの効果をもたらすが、以前に比べ効果は縮小
-
2022年03月23日
ロシアのウクライナ侵攻で一気に不透明感が増した世界経済
-
2022年02月10日
ロシアによるウクライナ侵攻の裏側にあるもの
ゼレンスキー・ウクライナ大統領の誤算
-
2022年03月17日
FOMC 想定通り、0.25%ptの利上げを決定
ドットチャートは2022-24年にかけて、計10.5回分の利上げを予想