サマリー
◆本稿では「都市と地方」「働き方改革」をキーワードに、現在の都市と地方が抱える課題およびその解決策について分析を行った。
◆製造業のような資本集約度の高い産業へ特化しつつある地域では東京との所得格差が縮小している。地域間の所得格差の解消には、他の産業でも資本労働比率を高めていくとともに、域外からの所得流入に結びつく競争力のある地域の基盤産業の構築、地方の人材力を高める所得分配のあり方、そして高度人材の地方での定着を図ることも重要だ。
◆雇用問題では女性や高齢者等がよく取り上げられるが、現役世代の男性就業率も低下しており、しかもそれらの地域間格差は拡大している。問題を解決するには単に労働需要を増加させるだけでは不十分で、各地域の実情にあった施策が求められる。
◆都市での介護施設不足などの解決のため、政府は都市の高齢者を地方へ移住させようとしているが、高齢者は基本的に同一都道府県内への移住が多く、さらに、他の都道府県へ移住する場合には近隣の都市、あるいは都市近辺を好んで移住している傾向がある。そのため介護施設は大都市近郊や地方都市で大幅に不足する可能性が高く、そうした地域では施設増設や質の高い在宅ケアを充実させて介護離職も予防すべきだ。
◆待機児童の対策は高コストな認可保育所向けが中心で、自治体の財源制約から整備が進んでいない。諸外国のように民間事業者の参入を促して供給量を柔軟に増やし、自治体が保育サービスの定期的なチェック等を強化するなどの仕組みが必要だ。さらに、育児休業などの両立支援制度と復職後の就業時間の選択が連携できておらず、結果的に就労を断念する場合もあり、長時間労働是正などの「働き方改革」も積極的に進めるべきだ。
◆空き家問題は地方だけでなく、近年は都市圏でも特に賃貸用の空き家が顕在化している。にもかかわらず、相続税対策や日銀によるマイナス金利導入によって地銀等の積極的な融資を通じた新規の貸家建設が増えているが、需要に見合ったものとは言い難い。一方、老朽化が進んだ空き家の増加に不安を感じる国民は多い。地方、都市圏に関係なく、使える空き家の選別を進めて、地域の事情に沿った有効活用を早急に考える必要があろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
-
中国経済:2023年の回顧と2024年の見通し
24年の成長率目標は5%か?達成の鍵は民営企業へのサポート強化
2023年12月21日
-
2024年の米国経済見通し
①個人消費の腰折れ、②インフレ率の高止まり、③政治の停滞がリスク
2023年12月21日
-
2024年度税制改正大綱解説
定額減税は経済対策としては疑問だが、インフレ調整策としては有効
2023年12月25日
-
四半期報告書の廃止に関する改正法の成立
四半期報告書が廃止された後の四半期決算短信の内容は?
2023年12月04日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
中国経済:2023年の回顧と2024年の見通し
24年の成長率目標は5%か?達成の鍵は民営企業へのサポート強化
2023年12月21日
2024年の米国経済見通し
①個人消費の腰折れ、②インフレ率の高止まり、③政治の停滞がリスク
2023年12月21日
2024年度税制改正大綱解説
定額減税は経済対策としては疑問だが、インフレ調整策としては有効
2023年12月25日
四半期報告書の廃止に関する改正法の成立
四半期報告書が廃止された後の四半期決算短信の内容は?
2023年12月04日