サマリー
◆インターネットの普及により、ネットショッピング市場が急速に拡大している。本稿では、ネット消費の成長が期待される分野として、生鮮食品などの食料分野に注目する理由を示す。一方、ネット消費拡大の追い風と考えられている共働き世帯の増加だが、現実には共働き世帯が多い地域ほど、ネット消費の割合が低いという現象が見られる。この背景を探る。
◆一人あたり消費支出に占める割合が最も大きい「食料」の購入先では、インターネットがほとんど利用されていない。それは、購入前に実物を確かめたいという消費者の要望や、消費者の低価格志向に応えられてこなかったためと考えられる。しかし、近年、消費者の購入行動や、食料購入時の志向の変化が見られる。鮮度や安全性を重視する消費者のニーズに的確に対応できれば、新たな利用者の増加が期待できるだろう。
◆また、高齢化や共働き世帯の増加といった社会的背景が、ネットショッピング需要の拡大に寄与すると一般に期待されている。しかし、高齢化によってネット消費は増えるものの、共働き世帯の増加は、現状のままではネット消費にプラスの影響とはならない懸念がある。なぜならば、現状の共働きが、世帯主の低い所得を補完する働き方であるケースが多く、世帯収入が十分に増えていないからである。
◆こうした状況が変わり、世帯主の所得補完を主たる目的としない共働き世帯が増加すれば、OECD諸国のように、共働き世帯の増加がネット消費割合の上昇に結びつく可能性がある。そのためには、世帯主であることの多い男性賃金の引き上げに加え、男女の賃金差を縮小することが重要であり、それを妨げるような税制度等の見直しも必要だろう。
◆また、日本では共働き世帯の女性の余暇時間が短くなりがちだが、女性の余暇時間が長い地域(国)ほどネットショッピング割合が高い様子が見られる。ネット消費拡大には女性が適度な余暇時間を確保できるよう、働き方はもちろん、家事・育児を簡素化するような工夫も必要と言えるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
健康経営の新たな戦略基盤
従業員多様化時代のウェルビーイングプラットフォームの可能性
2025年10月24日
-
健康経営の評価軸は「成果」へシフト
スコープは社会全体のウェルビーイング向上や経済成長にも拡大
2025年09月12日
-
従業員の経済的不安に、企業はどう応えるか
従業員の現在の備えと将来の資産形成を両立する米国企業の取り組み
2025年08月18日
最新のレポート・コラム
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
開示府令の改正案が公表(2026年から一部適用)
有価証券報告書のサステナビリティ情報、人的資本、総会前開示に関する改正案
2025年12月10日
-
2025年12月日銀短観予想
輸出不振や原材料高で製造業の業況判断DI(最近)は悪化を見込む
2025年12月10日
-
議決権行使助言業者への依拠は共同保有認定
米国SECのウエダ委員が議決権行使助言業者規制の方向性を明らかに
2025年12月09日
-
日中関係悪化、中国は自国経済・社会の不安定化回避を優先か
2025年12月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

