サマリー
◆奨学金は学生を対象に学資の給付や貸与を行う制度で、今や2人に1人が利用している。多くは独立行政法人日本学生支援機構が実施する返済義務のある貸与奨学金で、利用者は卒業後に返済を開始しているが、将来の返済に不安を感じている人々は多い。このことは、利用者の貯蓄や結婚といった生活設計への意識にも影響を与えており、晩婚化、少子化、そして高齢期の貧困につながる可能性が示唆されている。
◆利用者の返済に対する不安は、2000年代以降、延滞率の上昇と共に強まっていたとみられ、政府も対策を進めてきた。返還金の回収強化策や、返済負担を軽減する制度の導入、見直しが実施され、延滞率は足元にかけて低下している。有利子奨学金に比べて返済条件の有利な無利子奨学金の拡充、返済義務のない給付奨学金の導入も進められた。有利子奨学金の事業規模が縮小する中、特に給付奨学金の受給者は大幅に増加している。
◆だが、利用者の不安は未だ強く、今後は利用者の不安軽減を図るための実効性ある施策を実施する必要がある。まずは給付奨学金の事業規模をさらに拡大し、貸与奨学金における有利子から無利子への流れを加速させていくことが重要だ。また、近年は地方公共団体や企業が奨学金の返済を支援する動きも広がっており、新しい返済支援の仕組みとして期待できるのではないか。もっとも、これまでの制度拡充や新たな仕組みについて国民の認知度は低い。周知徹底を強化し、支援が必要な層へ確実に支援を提供できる制度のあり方を目指すべきだろう。
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