サマリー
◆日本経済の桎梏は、イノベーションが活発でないことに加えて、労働などの生産要素がうまく配分されていないことにも起因している。イノベーションを活発にし、労働の配分を効率化させるためには、これまでの日本型雇用慣行を改めていく必要がある。
◆現在、日本型雇用慣行の下で、賃金カーブのフラット化や労働者の高齢化という変化が生じる一方で、特に若年女性の高学歴化が加速している。人工知能(AI)の産業への取り込みも想像以上に早まることが予想され、劇的に変化する環境に適し、なおかつ、生産性に応じた新しい雇用制度を構築することが喫緊の課題だ。
◆雇用制度は慣行であり、企業と労働者が自発的に選択した結果できたものである。そのため、新しい制度への移行はそれを選択しようとする企業と労働者が過半数を上回れば自然と行われうる。ただし、配偶者控除のような周辺制度も同時に変わらないと、新しい制度へ移行するメリットが生じないため、従来の雇用制度はなかなか変化しないだろう。
◆日本型雇用慣行の変容は、これまで男性正社員を通じて行われてきた「世帯への生活支援」という側面が減じられることを意味する。そのため、これまで民間レベルで行ってきた現役世代の生活支援を政府がどこまで負担すべきか、という社会政策(社会保障政策や労働政策)の議論が、今後の日本の雇用を考える上では重要になるだろう。こうした議論をきっかけにして、人々が抱く不確実性を減らし、生産性も高めることができれば、結果的には足元で伸び悩む消費や投資を増やすことにもなる。
◆一億総活躍社会を実現するには、足元の労働力の量を確保するだけでなく、拡大する貧困や子どもの教育などへ対処し、将来の労働力の質を確保していくことも重要だ。質の高い人的資本をどのように生み出して活用していくのかは、潜在成長率を高めるための今後の中心的課題である。社会政策と経済政策の一層の連携が求められよう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
若者の奨学金返済の不安をどう解消するか
給付奨学金の拡充、貸与奨学金は有利子から無利子への流れを加速
2025年05月09日
-
大介護時代における企業の両立支援
〜人的資本のテーマは「介護」にシフト〜『大和総研調査季報』2025年春季号(Vol.58)掲載
2025年04月24日
-
2025年度の健康経営の注目点
ISO 25554の発行を受け、PDCAの実施が一段と重視される
2024年12月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日