サマリー
◆少子高齢化が急速に進むわが国では、労働力不足が懸念されており、労働力人口減少の対応策としてのみならず、潜在成長率の底上げを目指すための重要課題として女性の活躍推進が掲げられているが、課題は多い。1985年に男女雇用機会均等法が制定されてから30年近くが経過し、就業者全体に占める女性の割合が上昇しているものの、出産・育児というライフイベントと就労の両立に直面する割合が高い25~44歳の女性の就業率は男性と比較して低く、いわゆるM字カーブが残っている。
◆出産・育児を背景に女性だけが労働市場から離脱している理由には、固定的な役割分担意識のほかに、企業が福利厚生として提供する各種手当の受け取りの有無や退職金などを含む賃金の差が、男女間に一定以上あることが考えられる。そのため、家庭内で相対的に賃金の低い女性が、労働市場を退出しないまでも、育児休業を取得している傾向が強い。
◆育児休業期間を経れば、さらに男女間の賃金格差が拡大していくため、家庭内の収入は男性を中心に生み出され、女性は就業調整しながら家事や育児を行うことが効率的だと判断される。すると家事や育児の負担は女性に偏り、労働時間の長い正社員での両立が難しくなるため、短時間労働の非正規雇用に移行する女性の割合が増える。また、家庭内の収入の大部分を担うことになる男性の労働時間は、長時間化する懸念がある。
◆新成長戦略の中で女性の活躍を促す施策として、①保育施設や家事支援サービスの拡充(放課後児童クラブ等の拡充)、②女性の働き方に中立な税・社会保障制度の見直し、③女性登用の「見える化」等、女性の活躍加速化のための新法の制定、などが掲げられたが、「女性の輝く社会」の構築を目指すのであれば、正社員の男性に比重を置く従来の雇用慣行を改革してゆくことが求められる。そのためには、③を着実に実行していく覚悟が必要だろう。指導的地位に至る女性の割合については、柔軟な労働環境が整い、女性が男性同様の待遇を得て、やりがいを感じながらさまざまな挑戦をし続けることができる場が多くなれば、自ずと増えるだろうと思われる。
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