課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第2版)

「基礎控除引上げ+給与所得控除上限引下げ案」を検証

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2024年11月08日

サマリー

◆2024年の衆議院議員総選挙で自由民主党・公明党の与党が過半数割れとなり、国民民主党の政策への注目度が高まっている。本レポートでは、国民民主党が掲げる課税最低限「103万円の壁」引上げについて、実現した場合の家計と財政への影響について試算する。

◆所得税は課税最低限やブラケット(各税率が適用される年間所得の金額)が名目で固定されているため、物価や賃金の上昇率を上回って所得税額が増加するブラケットクリープが生じる。ブラケットクリープには、物価上昇率と同率だけ課税最低限を引上げること(インフレ調整)で対応できる。直近、所得税のインフレ調整が行われたのは1995年である。

◆国民民主党は、課税最低限を1995年からの最低賃金上昇率に基づき73%引上げること(103万円→178万円)を主張している。ただし、課税最低限の引上げ幅については、他に1995年からの物価上昇率(10%)に基づく考え方もある。また、課税最低限の引上げについても、様々な方法がある。

◆本レポート(第2版)では、近年の税制改革の方針である「働き方に中立な税制」および「所得税の累進構造の回復」に沿って課税最低限を引き上げる方法として、「基礎控除10.3万円引上げ+給与所得控除上限10.3万円引下げ」案を新たに検討した。この案では、年収850万円以下の世帯が減税の対象となり、財政減収額は0.9兆円と試算された。

◆課税最低限の引上げ方(基礎控除と給与所得控除最低限のバランス)次第で、今後の所得税のあり方は大きく変わることになる。課税最低限の引上げに当たっては、財政への影響や所得再分配のあり方など「あるべき姿」を見据えて、大局的な議論をもとにした政策決定が求められるだろう。

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