相続税・贈与税を「資産移転の時期の選択に中立的」にすると何が変わるのか?
税負担を抑える余地が少なくなり、増税方向の改正となる可能性あり
2021年02月24日
サマリー
◆2020年12月10日に自由民主党・公明党が公表した「令和3年度税制改正大綱」(以下、大綱)では、相続税・贈与税について「資産移転の時期の選択に中立的な税制」の構築に向けて「本格的な検討を進める」としている。
◆現在の日本の贈与税は、納税者が暦年課税と相続時精算課税のいずれかを選択できる。贈与税で暦年課税を選択した場合は、贈与の時期、および贈与であるか相続であるかにより贈与と相続のトータルの税負担が大きく異なる。これに対し、米国・ドイツ・フランスでは相続税と贈与税を統一的に扱い、資産移転の時期の選択により大きな税負担の差が生じない仕組みであり、これらの国を参考に改革が検討されると考えられる。
◆「資産移転の時期の選択に中立的」な税制を目指すことは、資産移転の時期の選択によって税負担を抑える余地が小さくなることも意味する。租税法律主義を踏まえると、改正の施行前の贈与に遡及増税が適用される可能性は低いため、政府・与党で税制改正の検討が進むにつれ、施行前の「駆け込み贈与」のニーズが強まる可能性も考えられる。
◆現在の日本の相続税・贈与税の税収は、名目GDP比で主要国と比較して相対的に高水準にあり、直近の2013年税制改正時からの物価・地価の変動を踏まえても増税を行うべき積極的な理由は見出しづらい。だが、「資産移転の時期の選択に中立的」な税制を目指すことで結果として増税方向の改正となることも考えられ、その際には相続・贈与をサポートする金融機関のビジネスのあり方にも影響を与えるであろう。
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