政府・与党の社会保障と税の一体改革成案の分析

消費増税なき給付増により、さらなる財政悪化の懸念あり

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2011年07月05日

サマリー

◆2011年6月30日に、政府・与党は「社会保障改革検討本部」にて、社会保障と税の一体改革の原案である「社会保障・税一体改革成案」(以下、成案)を決定した(ただし、閣議決定は行われていない)。今後、2011年度中に「社会保障と税の一体改革」の法案成立を目指し、政府与党成案をもとに野党との協議や詳細の整備が行われる。

◆成案では、2010年代半ばまでに消費税率(国・地方計)を段階的に10%まで引上げるものとしているが、「経済状況の好転」を条件とされており、引き上げの時期は明確化されていない。

◆他方、社会保障改革による社会保障機能の強化については2015年までに、(高齢化による社会保障費の自然増を除き)2.7兆円を増加させるものとしている。社会保障機能強化については2015年という明確な時期の指定がある一方、消費税の増税は非常に高いハードルが設定されており、増税(財源)なき給付の拡大によるさらなる財政悪化も懸念される。

◆さらに、社会保障機能強化にかかる費用の2.7兆円についても、機能強化にかかる3.8兆円から抑制による削減額1.2兆円を差し引いた額とされるが、成案に示された具体的な改正案を足し上げた金額は(四捨五入等の影響を勘案しても)これと一致しない。給付抑制策が十分に行われないこと、社会保障機能強化にかかる費用がさらに拡大することが懸念される。

◆少なくとも、消費税率の引上げができなければ社会保障の機能強化も行わないようにし、かつ、消費税率引上げ時にはその大部分を財政健全化に資する形とすることが必要である。政府・与党には消費税率引上げ時期の明確化と、具体的な社会保障給付の抑制策の決定が求められる。

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