サマリー
◆米国では、雇用者数の伸びが低調となる一方、実質GDPが堅調に推移する「雇用抑制型の経済成長」の様相を呈している。雇用者数の伸び悩みは、厳格な移民政策による労働供給の制約に加え、AI活用の進展や関税負担の増加を背景に企業が労働需要を抑制していることが要因だ。他方で、AI関連の設備投資の積極化や、AI関連の株価上昇による資産効果が消費を押し上げることで、2025年の成長率は潜在成長率を上回る水準が見込まれている。
◆従来、雇用と実質GDPは連動する傾向があるが、足元ではこの関係性が弱まりつつある。過去を振り返ると、ITの活用が広がった1990年代後半~2000年代前半は労働生産性の上昇により、実質GDPの実績値が労働投入量を基にした実質GDPの試算値を上回って推移した。一方、2010年代はバランスシート調整の影響で実績値が試算値を下回る局面が続いた。「雇用抑制型の経済成長」が持続するかは、労働生産性の改善が幅広い業種に広がるかということに加え、設備投資が企業収益に見合った健全なペースに保たれるかがカギとなろう。
◆最後に、「雇用抑制型の経済成長」が続いた場合の米国経済への示唆は何か。前向きな点としては、生産性改善による潜在成長率の押し上げとインフレ圧力の緩和が見込まれ、物価安定と高成長の両立が可能となりうる。他方で、雇用増加の裾野が狭いままでは、「K字経済」の深化による消費の脆弱性が高まるほか、過剰投資が積み上がれば将来的なバランスシート不況の火種となりうる。総じて、「雇用抑制型の経済成長」は 生産性向上による高成長と物価安定というメリットと、恩恵の偏在・投資過熱というリスクが表裏一体の「両刃の剣」といえるのかもしれない。「雇用抑制型の経済成長」が有するリスクを低減するためには、生産性向上の成果が広範な所得層に波及する仕組みを確保するとともに、金融環境の過度な緩和による資産価格や設備投資の過熱を抑制するなど、マクロ経済運営と分配構造の両面からの慎重な舵取りが不可欠となる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米GDP 前期比年率+1.5%と減速
2026年4-6月期米GDP:内需は堅調も輸入が下押し
2026年07月31日
-
FOMC 5会合連続で金利据え置き
フォワード・ガイダンス依存から脱却し、必要となるのは綿密な経済分析
2026年07月30日
-
米国経済見通し 中東政策は8月にTACOか
中東情勢悪化が影を落とす中、政治日程が中東政策転換の鍵を握る
2026年07月28日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
中国経済見通し:泥沼化する不動産不況
低迷する内需。財政出動・さらなる金融緩和への期待が高まる
2026年06月22日
-
ナフサ問題がもたらす日本経済の不安要素
物価上昇は避けられず、供給不足が生じればさらなる経済下押しも
2026年06月15日
-
第229回日本経済予測(改訂版)
混迷する中東情勢、その先で問われる日本経済の構造転換①「持続的成長」の条件、②資産形成と成長の好循環、を検証
2026年06月08日
-
「成長投資ガイダンス」の解釈とその活用法
資本コストを上回る資本収益性の確保は価値創造(EP)の前提条件
2026年06月17日
-
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
中国経済見通し:泥沼化する不動産不況
低迷する内需。財政出動・さらなる金融緩和への期待が高まる
2026年06月22日
ナフサ問題がもたらす日本経済の不安要素
物価上昇は避けられず、供給不足が生じればさらなる経済下押しも
2026年06月15日
第229回日本経済予測(改訂版)
混迷する中東情勢、その先で問われる日本経済の構造転換①「持続的成長」の条件、②資産形成と成長の好循環、を検証
2026年06月08日
「成長投資ガイダンス」の解釈とその活用法
資本コストを上回る資本収益性の確保は価値創造(EP)の前提条件
2026年06月17日
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日

