サマリー
◆5月12日に米中政府は両国間の関税率引き下げ等を含む共同声明を公表した。米中間の貿易戦争がデタント(緊張緩和)に向かうとともに、足元までは景気が底堅く推移していることから、米国経済に対する市場での悲観的な見方は幾分後退した。
◆追加関税措置はマイルド化しているが、実効関税率は上昇が見込まれる。ドル安も相まって、仕入価格は上昇傾向にあり、インフレ率が再加速する可能性がある。企業が足元で収益マージンの縮小に直面している点は、最終消費者への価格転嫁が軽減されることを意味する一方、雇用増や設備投資のための資金余力も低下させ得る。大幅な景気悪化リスクは低下したものの、景気が減速するとの見立ては変わらない。
◆2025年通期の実質GDP成長率は、米中間の貿易戦争のデタントを反映し、前回見通し時点の前年比+1.3%から同+1.6%へと引き上げた。上方修正したとはいえ、+2%前後とされる潜在成長率を下回るペースであり、2024年の成長率が同+2.8%であったことを踏まえれば減速感は強い。
◆メインシナリオとして景気減速を想定する中で、一層のペースダウンをもたらし得るリスク要因として、財政悪化と学生ローン政策の変更がある。財政に対する懸念が金融環境の悪化へとつながれば、設備投資や住宅投資等を冷やし得る。また、学生ローン政策の変更により、可処分所得が減少し、個人消費に下押し圧力がかかる恐れもある。
◆他方、景気の下支え要因として、民間企業や外国政府主導の投資の積極化が挙げられる。ただし、それらの投資は必ずしも公表通りに実施されるわけではなく、実施されてもGDP統計に反映されないものもある。また、投資促進には政策によるサポートも必要となるが、減税策は早期の成立が可能かは予断を許さず、FRBは利下げの判断について様子見姿勢を続けている。こうした投資による景気の押し上げ効果は、近い将来というよりも、やや先の将来での発現を想定すべきだろう。
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