サマリー
◆2025年3月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月差+22.8万人と前月から加速し、市場予想(Bloomberg調査:同+14.0万人)を大幅に上回った。ただし、雇用者数は過去分が下方修正され、均して見ればペースダウンしている。失業率に関しては4.2%と2カ月連続で上昇(悪化)した。もっとも、失業率は四捨五入が見栄えを悪くしており、小数点第2位まで含めればほぼ横ばいといえる。また、非自発的失業と非自発的パートタイム就業者が減少したことは雇用環境が悪化していないことを示している。総じて見れば、雇用環境は底堅さを維持していたといえよう。
◆もっとも、市場の目線は既に4月2日に公表された相互関税を踏まえた雇用環境の先行きに移っている。トランプ政権による一連の追加関税措置により家計の消費や企業の投資が抑制されるとともに、報復関税が輸出を下押しすることで、景気は悪化するとみられる。2025年2月の求人件数は依然として直近の失業者数を上回っているものの、景気の悪化に伴い、新規雇用の抑制に留まらず、レイオフ・解雇が増加していくことも想定し得る。トランプ第1次政権時(2017年1月-2021年1月)を振り返れば、2018年下半期から対中追加関税を本格化させたことに加え、利上げが進められていたことで、求人件数は2018年11月にピークアウトした。当時は対中追加関税に伴う景気悪化への懸念から、2019年7月のFOMCにおいて、景気悪化へと陥ることを予防するために、利下げを開始し、バランスシートの縮小を停止した。
◆3月の雇用統計の公表直後にパウエルFRB議長が講演を行い、雇用環境は依然として堅調であると指摘した。注目の関税については、予想よりも大幅な引き上げだったものの、影響は依然として不透明とした。また、関税が持続的なインフレに発展することを防ぐために、長期のインフレ期待の固定が重要であると指摘した。こうした中でパウエル議長は、FRBはトランプ政権による政策の影響がより明らかになるのを待つのに良い位置にあり、急ぐ必要はないとした。パウエル議長の発言を踏まえれば、人々や企業、そして、市場が景気への懸念を強める中でも、FRBは雇用環境や景気全体の悪化傾向がハードデータで確認できるまでは、関税によるインフレ加速を警戒せざるを得ず、様子見姿勢を維持すると想定される。
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