サマリー
◆市場において、米国経済の先行きをめぐる論点は、高インフレから雇用悪化へと大きく変わった。7月の雇用統計が軟調な結果となったことに加え、7月のCPIが減速傾向を続けたことが契機となった。こうした論点の変化を背景に、市場ではFRBの利下げ期待が強まり、8月21日時点では2024年内合計0.9%pt程度の利下げを織り込んでいる。
◆市場が懸念する雇用悪化に関しては、雇用統計の失業率の上昇と非農業部門雇用者数の下振れが材料となった。ただし、失業率の上昇に関して要因分解すると、労働需要の低下による押し上げは過去の景気悪化時に比べて限定的であり、労働供給の拡大も上昇に寄与したことから、過去の景気悪化時と同一視すべきではない。また、非農業部門雇用者数の下振れに関しては、ベンチマーク改定による過去分の下方修正が不法移民の流入増を捕捉できていない可能性がある。ノイズが大きいことや、雇用統計以外の雇用関連指標に大きな変化が見られないことを踏まえれば、現時点では雇用環境を懸念しすぎず、緩やかなペースで悪化しているとの見方を維持するべきだろう。
◆インフレに関しては減速傾向が続いているものの、先行きに関しては楽観できない。これまでペースダウンしてきたCPIコア財の伸び率減速の余地は限られつつある。依然として高水準のCPIコアサービスのペースダウンが期待されるが、構成項目のうち家賃は金利低下による住宅販売の活性化によって下げ渋る可能性がある。また、家賃を除くCPIコアサービスの伸び率も、先行する長期の期待インフレ率が高止まりしており、順調に減速していくかは不透明だ。
◆以上を踏まえれば、インフレ減速は進み、雇用環境は悪化へという単純な構図で米国経済の先行きを考えることには慎重になるべきだろう。金融政策に関しては、FOMC参加者の中でも近い将来での利下げに積極的なスタンスが示されており、早ければ9月17-18日のFOMCでの利下げ決定が想定されるものの、利下げペースに関しては市場の想定に比べて緩やかとなる可能性があり、過度な期待は禁物といえる。
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