サマリー
◆2022年の米国経済は、高インフレとFOMCの金融引き締めに振り回された一年であった。高インフレが続く中で、急ピッチでの金融引き締めが進み、米国経済は減速傾向を示している。2023年も引き締め的な金融環境は続き、実質GDP成長率は前年比+0.7%と減速感はいっそう強まるだろう。先んじて落ち込んだ住宅投資に加え、設備投資も大幅に減速すると考えられる。雇用環境が徐々に悪化することで、米国経済の屋台骨である個人消費もペースダウンし、米国経済の下支え役としては期待しにくくなるだろう。
◆雇用環境の悪化は、労働需給のタイトさを緩和させ、賃金上昇圧力を抑制することで、インフレを減速させていく。大和総研は、CPIに関して2022年11月の前年比+7.1%から、2023年6月には同+4%前後、同年12月には同+3%前後まで低下すると見込んでいる。インフレが順調に減速していけば、2023年下半期には実質時給がプラスに転じ、個人消費への下押し圧力が和らぐ。また、インフレが減速すれば、2024年以降の利下げを織り込み、市場金利が低下することで、2023年下半期には設備投資や住宅投資もボトムアウトしていくと考えられる。
◆他方で、2023年の米国経済は三つのリスク要因が想定される。第一に、労働需給のタイトさが長期化し、インフレが高止まりするリスクである。第二に、政府債務上限問題を背景とした市場の不安定化による景気後退リスクの高まりが懸念される。第三に、両リスクが同時に顕在化する、つまり、インフレが高止まりしている時期に景気後退が発生することで、FOMCはインフレ対策(引き締め的な金融環境)と景気のテコ入れ(緩和的な金融環境)という二者択一を迫られるリスクである。とりわけ懸念されるのは、高インフレの中でも金融緩和を優先することで、高インフレが定着し、後々に急激な金融引き締めと景気の大幅な調整が必要となった1970年代後半から1980年代前半の状況の再発可能性が高まることだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米GDP 前期比年率+3.0%とプラスに転じる
2025年4-6月期米GDP:輸入の反動減が押し上げた一方、内需は減速
2025年08月01日
-
FOMC 9月利下げに向けて含みを持たせる
インフレ統計の歪みと雇用統計の弱含みに注目
2025年07月31日
-
米国経済見通し 関税激化はいつまでか
米国内の不満の高まりを受け、関税激化の長期化は考えにくい
2025年07月22日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日