サマリー
◆米国は6月15日に、中国の知的財産権侵害への制裁措置として500億ドル分の中国製品に対して25%の関税を発動すると発表した。さらに、中国側の報復を受け、トランプ大統領は追加で2,000億ドル規模の中国製品に対し、10%の追加関税を課すと警告し、新たな関税となる製品の特定をUSTR(米国通商代表部)のライトハイザー代表に指示した。米中間の貿易を巡る攻防は激化の一途を辿っている。
◆現時点での関税措置の対象となる品目の輸入額が輸入全体やGDPに占める割合は限定的であり、物価の上昇や、報復関税による輸出減少が、堅調な米国経済を即座に腰折れさせるほどのインパクトはないだろう。とはいえ、企業へのサーベイでは、仕入価格の上昇に対する懸念が既に広がりつつあることが確認されており、さらなる関税の導入は企業マインドを下押しすると考えられる。また、インフレ圧力の高まりは金融政策の正常化を進めるFRB(連邦準備制度理事会)による利上げペースを加速させる要因となり得るため、米国経済の減速リスクを高めることになろう。
◆米国がとりわけ中国に対して強硬な態度をとる背景には、巨額の貿易赤字や知的財産権を巡る問題に加えて、中国の過剰生産能力に対する懸念があるとみられる。今回米国が導入を決定した関税が解除されるためには、中国側の報復関税の解除のみでは不十分であり、さらなる中国側の譲歩が必要となろう。また、トランプ大統領の保護主義的な通商政策は、中間選挙に向けた保守派支持層向けのアピールという見方が根強いが、こうした政策が中間選挙後、必ずしも終息へ向かうとは限らない。
◆足下までの経済統計を踏まえると、2018年4-6月期の実質GDP成長率は、前期比年率3%を上回る高い伸びが見込まれ、1-3月期から再加速する公算が大きい。成長率が加速する最大の要因は、1-3月期に低い伸びに留まった個人消費が持ち直すと見込まれることである。対中国を中心とした、さらなる貿易摩擦の激化によって、内需をドライバーとした景気拡大が腰折れすることは現時点では想定していないが、景気下振れリスクとして今後の動向を引き続き注視していく必要があろう。
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