サマリー
◆医療保険に関し、米国は先進国の中で唯一公的な国民皆保険制度がなかった国であり、医療費が最も高い国である。高齢者向けと低所得者向けの公的医療保険があるものの、民間の医療保険が医療保険市場の中心である。米国における医療費は、過去何十年にもわたってインフレ率以上に上昇を続け、医療費の高騰とともに医療保険料も高騰した。その結果、人口の約15%に相当する約4,900万人と言われる無保険者の増加を招いてしまった。
◆オバマ大統領は手頃な価格の(affordable)医療サービスを全国民に提供することを公約に掲げ、共和党などの反対に遭いながらも2010年3月、患者保護及び医療費負担適正化法(Patient Protection and Affordable Care Act of 2010)、通称オバマケア(Obamacare)を成立させた。オバマケアは無保険者の医療保険への加入を促すと同時に、医療費を抑制し、医療の質を向上することを目的に、米国における民間及び公的医療保険に影響を及ぼす歴史的な医療保険制度改革となった。
◆オバマケアの下、2014年より必要最低限の医療保険に加入することが義務付けられた。これまで医療保険に加入していなかった個人や中小企業などは、手頃な価格の民間医療保険へ加入できることになり、州または連邦政府が運営する医療保険取引所(Health Insurance Exchange)を通じて、民間医療保険を購入できるようになった。医療保険への加入義務に反して医療保険を保持しない場合は、所得税の申告時において罰金を支払う必要がある。
◆オバマケアが制定されてから2015年3月で5年が経過した。保健・福祉省の発表によると、医療保険の加入者が増加するにつれ、無保険者率が確実に低下しており、オバマ政権はオバマケアの成果をアピールしている。
◆オバマケアによる米国の医療保険制度が構造的に改革された結果、米国の医療費はここ数年にわたって伸びが抑えられている。医療費の抑制による長期的経済利益が大きく期待される一方で、共和党を始めとする保守系の反対派や国民からのオバマケアの撤廃を求める声は消えていない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
米国の公的医療保険、メディケア(その2)
メディケアの変遷と破綻回避に向けた改革が続く
2014年12月02日
-
米国の公的医療保険、メディケア(その1)
主に高齢者を対象とし、4つのプログラムから成る
2014年10月27日
-
米国の公的医療保険、メディケイド
オバマケアの施行により、加入者数及び支出が大幅に増加
2015年02月06日
同じカテゴリの最新レポート
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
非農業部門雇用者数は前月差+13.9万人
2025年5月米雇用統計:緩やかな悪化に留まっていることを示唆
2025年06月09日
-
米国経済見通し 米中デタントも、景気は減速へ
財政悪化と学生ローン政策の変更が景気を一層減速させるリスク要因
2025年05月23日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日